先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第93話 ネリアとシゲル
ルースが天へと旅立って行ってから、二年ほどが経過した頃。
相次いで親友を二人とも失ってしまった私の心の傷も、この頃になると、ようやく癒えていた。
エストの子供たちは、ネリアが昨年に成人式を迎えていて、シゲルが少し前に成人していた。
二人とも優秀な成績で初等学校を卒業後、すぐに公立の高等学校の入試に合格していて、そのまま、優秀な成績で卒業していた。
ネリアは母親のローズさん譲りの赤髪を長く伸ばし、とても丁寧な口調で語り掛ける淑女に成長していた。
シゲルの方は、エストに顔はよく似ていたのだが、体つきはおじいちゃんのエルクに似たようで、細身の体に引き締まった筋肉を持つ、とても逞しい男性に成長していた。
エルクとエストが競い合うようにして教えていた剣の腕も優秀で、おじいちゃんを彷彿とさせる、とても優秀な壁役に育っていた。
ネリアとシゲルの胸にはひいひいおばあちゃんのペンダントがかけられていて、エストの狙い通りに、私の里への強い興味を持つようになっていた。
そして、シゲルが成人式を迎えた時点で、二人は私の里への旅行の許可をエストへと願い出ていた。
それを聞いたエストは大きく頷き、あっさりと許可を出した。
「森の隠れ里に興味を持ってくれて、私はとても嬉しいです。よって、旅行は許可します」
しかし、ここで一つだけ条件を加えた。
「ただ、鍛えているシゲルはともかく、ネリアが十日も徒歩で旅をするのは少し難しいでしょうから、行商人のアルトさんにお願いして、馬車に乗せてもらいましょう」
その提案を聞いたネリアが、丁寧な所作で頭を下げ、謝意を述べる。
「ありがとうございます、お父様。わたくしも歩いて旅をするのは、少し難しいだろうとは思っておりました」
その後、ガルムの都市のアルトさんに連絡を取ってから自宅を訪ねて、お金を払うのでネリアを馬車に乗せてくれないだろうかと交渉してみた。
それを聞いたアルトさんは、あっさりと了承してくれた。その時の会話は、以下のようなものである。
「ネリア様が馬車に乗っていただくのは全く問題ありませんが、ヒデオ様とシゲル様は、本当に徒歩でよろしいのですか?」
それにシゲルが大きく頷き、返答する。
「ええ、私たちまで馬車に乗ってしまうと、行商ができなくなるでしょうから」
「私としては、行商の費用の分だけお金を払っていただければ、空荷でもかまいませんよ?」
私はそれに頭を振って否定する。
「私たちはそれでいいかもしれませんが、行商人を待っている途中の村や私の里が、それでは困ってしまいます。ですから、徒歩でかまいません」
そんな交渉をした後日。
エストが私に相談があるからと、私を執務室に呼び出していた。
「おじい様。私は、直系の子孫たちには、ひいおばあ様を一度は訪ねるように義務付けたいと思っているのです」
それを聞いた私は少しだけ渋い顔になり、否定する。
「エスト、気持ちは分かりますが、無理強いはいけませんよ?」
その返答を聞いたエストは顎に手を当て、少しの間考えた後に、こう語った。
「では、おじい様。里に帰った時に、ひいおばあ様にこうお願いしてはいただけませんか? 私の子孫たちには、代々、魔石を作って欲しいのだと」
それを聞いた私は少し笑顔になり、快く了承する。
「それであれば構いません。私も子孫たちには里の魅力を知って欲しいので、エストやシゲルたちにしたように、里の魅力を教えることにしましょう。そして、成人した時に本人が望むのであれば、私が里まで護衛して旅行しましょう」
それを聞いたエストも少し笑顔になり、謝意を述べた。
「ありがとうございます、おじい様。その方向でお願いしますね」
そんな会話をしてから、数日の後。
準備の整った私たちはアルトさんと合流し、私の里へと旅を始めた。