先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第32話 配線の研究
私はこれまでに提案した魔道具を振り返り、反省すべき点は反省しながらも、また新しいアイデアはないかと考え続ける。
それから何日かが経過し、ある事実に気が付いた。
(魔道具の原価は、銀線の価格がかなりの割合を占めます。ここを何とかすれば、かなり安く作れるはずです)
そこまで考えて、ハッとなった。
(銀線が使われるのは、魔力伝導率がいいからです。魔力伝導率と言えば、あの例の塗料が画期的な効率のはずです。あの金色の粉を使った配線ができないでしょうか? これは、親方に相談してみましょう)
この思い付きを実現させるべく、私は早速、親方の元を訪れた。
「親方、ちょっといいですか?」
「何だ? また変なものを設計してきたのか?」
すっかり信用を失ってしまっているかのようなその返答に、ちょっと落ち込んでしまうが、私は構わずに本題を切り出した。
「いえ、アイデアだけは素晴らしいと褒めていただいたので、まずはアイデアを見てもらいましょうかと」
そして、アイデアを軽く説明する。
「わしの専門は塗料の研究なんだがな……。そこはいい。だがな、その研究は没だ」
「なぜです?」
また没になってしまったかと少し気落ちしてしまったが、それでも、その原因を知らなければ次に活かせないと気を取り直し、素直にその理由を尋ねた。
「あの金色の粉を混ぜ込んだ合金の板さえあれば、わしの技術であれば線の形に加工はできるだろう。それを使えば実験はできる。しかしな、誰がその合金の板を作るんだ?」
親方は正解そのものを教えるのではなく、ヒントを与えてくれた。自分で考えろという事だろう。
少し顎に手を当てて考えてみるが、何を言いたいのかが検討もつかない。そこで、ごくありふれた回答をしてみる。
「鍛冶屋さんでしょうか?」
「そうだ。そしてその時、混ぜ込んで欲しいものを渡さないといけない」
「あっ!」
ここまでヒントを出されて、私もようやく気付けた。
合金を作ってもらうためには、あの粉を渡さなければならない。そして、あれはルツ工房の秘伝中の秘伝だ。不用意には渡せない。
仮に渡せたとしても、出どころや原料を説明できない。原料がばれてしまうと命にかかわってくる。無理はできない。
しかし、このアイデアをここで終わらせてしまうのは惜しい気がして、もう少し考えを進めてみる。
「ならば……、いっそ、染めますか」
「染める?」
私は親方のその聞き返しに対し、頷きを返してその利点を述べる。
「ええ、糸にあの塗料をしみこませて染めます。これなら簡単に自作できるので、実験はできますよね?」
親方にとってこの新たなアイデアは意外だったようで、ちょっと驚いた様子をみせたが、それも一瞬のことで、すぐに何度も頷きながら同意してくれる。
「なるほどな……。わしの研究は塗料がメインだ。だが、あの粉でそっちは片が付いた。次は配線を研究してみる事にしよう。これが実現したら、魔道具の価格破壊が起こる。歴史に名が残るぞ!」
それから、嬉々として研究を続けた親方だったが、結論から言わせてもらうと、この案は失敗に終わった。
糸でも染めればごく微量なら魔力が流れるが、効率が悪すぎて使い物にならなかったのだ。
魔法式のプレートが金属なのも、それが関係しているのではないだろかという結論だった。
プレートの材料は誰も疑問なく鉄を使っているが、あれもおそらくは、紙や布だとだめなのだろう。
考えてみれば当たり前の事で、古代魔法文明の魔道具でも、魔法式のプレートは金属製になっている。
あれほどの文明であれば、プラスチックのようなもっと加工しやすい材料もあっただろうに、わざわざ金属製のプレートを使うのにも意味があるのだろう。
これらの事が判明するのは、ずっと後になってからだった。