先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第33話 デンドウのこぎり
親方が嬉々として配線の研究を始めたので、没ばかりな新商品開発から脱却し、そろそろ儲かるものを作りたい。
新しい発想の基になるものはないかと、これまでの没アイデアを一つずつ振り返り、考えをまとめていく。
電卓を作ろうとして失敗したのは、原価を考えなかったからだ。高額になるのは、機能が複雑すぎたからだ。ならば、もっと単純で便利なものを考えればいいはずだ。
ただ、この世界には水魔法や風魔法があるので、それらでは代用できないものでないと意味がない。
「単純かつ、便利なもの。しかも魔法と被らない……」
独り言を呟きながら、私に与えられた部屋をうろうろと歩き回る。
「そう言えば、『モーター』があるのに、これを使った便利アイテムを考えていませんね。『モーター』、回転、単純……」
顎に手を当て、しばらく考えていく。
構造はできるだけ単純でなければ高額になってしまう。回るもので何か道具がないだろうか? 車の車輪や船のスクリューは論外だ。
考えを進めながら、なにがしかのヒントはないかと部屋を見渡す。
そして、柱に目が行った瞬間、私は閃きを得た。
「あるじゃないですか、回転する便利なものが」
私は過去の反省を生かし、設計する前に相談するため、親方の元を訪れた。
「親方、新しいアイデアが浮かんだので、相談に乗っていただけませんか?」
「ああ、いいぞ。お前はアイデアだけなら天才だからな……。これからも、設計する前に相談に来い」
私の説明はこうだ。
「まず、回転の魔道具を研究、改良して、もう少しパワーが出るようにします。そして、それの先に、円形状に加工したのこぎりを付けます」
そう。電動のこぎりである。
「ふむ……。お前のアイデアにしては、最初から実用性が考えられているな。頭の中でざっと構造を設計してみた限りでは、価格も抑えられるだろう」
親方はそう言って一つ頷き、開発を許可してくれた。
まずはモーターの改良から始める。
パワーを高めるだけなので、これについては比較的簡単にできた。魔力を渡すパラメーターの値を、少し増やした程度である。
先にモーターの部分だけを試作し、いろいろと実験を繰り返して問題点を洗い出していく。
平行して丸ノコの開発も進める。
これについては、元々金属加工の技術を持っているため、円盤を鍛冶屋に発注し、自分で削り出していく。
いろいろあって、試作一号機が完成したのは、それから半年ぐらいが経過した頃だった。
「親方、デンドウのこぎりの試作一号機が完成しました。これから実演しますので、見ていてください」
「ん? どれどれ」
試作一号機の前に親方を案内し、そこで適当な板を切って実演する。
デンドウのこぎりが目指したところは、手で保持して材木が加工できるタイプのものだった。
しかし、実際に作ってみるとかなり重たいものになってしまったため、手に持って扱うには難しいものだった。
そこで、机に固定して扱うタイプに途中で設計が変更されている。
「良さそうだな。だが、これは細工物とかに向かんな。大雑把にしか切れん」
私はここで、温めていた営業のアイデアを語り始める。
「営業に関しては、私にアイデアがあります。この魔道具の主な客層は、材木屋とか大工等の、比較的大きな木材を扱う人たちになりますよね?」
客層が狭くなるので、宣伝する必要が出てくる。そして、この世界での主な宣伝手段は口コミになる。
「この試作一号機を材木屋に無料で貸し出しします。そして、実際に使ってもらって便利さを実感してもらい、口コミで評判を流してもらいましょう」
このアイデアは、即刻採用される事になった。