先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第60話 エルクの横顔
俺の名前はエルク。今年で三十九歳になるガイン村の領主だ。
若い頃はいろいろとやんちゃもしていたが、さすがにこの年になると、かなり落ち着いてきたと思う。
今でこそ、エルク・ウル・ガインなどという偉そうな名前がついているが、元は名前もないような辺境の村で生まれた、ただのエルクだった。
そして、俺は幼馴染のルースにずっと恋をしていた。きっかけが何だったかなんて、もう覚えてもいない。
それこそ、物心がついた時には、もうルースの事が好きだった。
だから、俺は積極的にルースとかかわろうとして、いつも遊びに誘っていたものだ。
同じ里で生まれた幼馴染たちは、そんな俺の恋心を知っていて、なるべくルースと二人きりになるように仕向けられていた節があるぐらいだ。
でも、肝心のルースだけが、俺の恋心に全く気づいてもいなかった。
恋というものに無頓着だったんだろうな。それでもかまわなかった。
それなら、ルースは誰の事も好きにならない。だから、時間をかけてゆっくりとアピールしていけばいいと思っていた。
それから何年かが経った時、ルースが初めて魔法を習うと、いきなり無詠唱で火種を出して村中を大騒ぎにしていた。
それを目にした俺は、内心で焦りまくっていた。
だって、そうだろう? ルースは魔導師だった。なら、いつかはこの村を出て、王国で攻撃魔法を習って活躍するようになるのは間違いない。
それから、俺は猛烈に頭をひねった。ひねり続けた。そして、ある事に気づいた。
ルースはやがて凄い魔導師になるだろうけれども、独りぼっちでは防御が薄くなるって事に。
なら、俺がその防御の部分を補ってやれば、自然とルースと二人で王国に行けるだろうと考えた。
それからの俺は必死だったさ。
自作した粗末な盾を背負ってひたすら走り込んだり、大人の魔物狩りに混ぜてもらったりした。
そのかいあって、俺はルースと二人で王国へと旅立つ事に成功した。あの時はとても嬉しかった事を覚えている。
そして、二人で意気揚々と傭兵団に入った時、あいつに出会ったのだったな。
そう、ヒデオだ。
あいつは最初から優しいやつだった。
なにせ、攻撃魔法を習うには大金が必要だって分かった時、あいつはさして悩むそぶりも見せずに、それを教えてくれるって言いだしたのだからな。
しかも、金は稼げるようになってからでいいという大盤振る舞いだった。
その後になって、友人として付き合い始めると、あいつはとてもいいやつだって事が、身に染みて分かったものだ。
言葉遣いは丁寧で、いつも物腰が柔らかい。何より、誰に対しても優しい。
だから、ルースがヒデオに惚れてしまったのも、仕方がない事だったのだろうな。
あの頃、俺は完全に油断していた。
もう少しすれば、ルースも結婚を意識し始めるはずだ。だから、その時になれば、恋愛に無頓着なルースは一番身近な俺を選んでくれるはずだと、信じて疑っていなかった。
気づいた時には、もう完全に手遅れになっていた。
ルースはすっかりヒデオに首ったけになっていて、あの手この手で気を引こうとしていた。
ヒデオもだんだんとルースに惹かれていったのが分かってしまったので、ああ、これは勝負あったなって、俺は諦めてしまっていた。
でも、いつまで経っても求婚をしないヒデオに業を煮やしたルースが自分から求婚すると、あいつははっきりと言った。
ルースを愛しているけれども、結婚はできないと。
こいつはいったい何を言っているんだ? って正直思ったさ。
でも、その後の説明を聞いて、俺も納得できた。
それからは、生まれて初めて経験した失恋にすっかり落ち込んでしまったルースを、ひたすら慰め続けた。
そうすると、いつの頃からか、ルースも俺の気持ちにやっと気づき始めてくれるようになった。
そして、半年ほどが経った頃だったろうか。こう言ってくれた。
「もしかして、エルクは私の事が好きなの?」
俺は頷いて言ってやったさ。気づくのめっちゃおせーよって。
そうしたら、こう言ってくれた。
「じゃあ、一生かけて私を幸せにしてくれる?」
俺はそれを聞いた瞬間、その場に跪いてルースの手を取っていた。
そして、そのままの勢いで、俺と結婚してくれと言っていた。
そうすると、ルースは少し寂しそうな顔をしていたけれども、確かに頷いてくれたんだ。
ヒデオに未練があったのだろうって気づいた。それでも、俺を選んでくれたのが、天にも昇るほど嬉しかったんだ。
それから俺たちは結婚して、今では、二人の子宝にも恵まれている。
ヒデオの養子になって、お貴族様にもなれた。
振り返ってみると、俺の人生は波乱万丈だったけれども、後悔なんて全くしていない。
むしろ、これからだって思っている。
これから死ぬまで、ずっとルースと添い遂げる。そんな幸せに満ちた一生を、ルースと二人で送ってみせるさ。