先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第61話 エストの成人祝い
それからさらに数年の時が過ぎ去った頃。エストは十六歳になり、成人式を済ませた。
エルクが剣を教え、ルースと私が魔法を教えた結果、エストはとても逞しく成長していた。
エストは無詠唱魔法こそ使えなかったが、私から見てもかなり優秀な魔力制御力を持っていて、多彩な魔法を使いこなす優秀な魔術師になっていた。
ただ、ルースによく似ているためか、体つきは少し華奢だ。
父親のエルクのように、盾を持って真正面から魔物の突進を受け流すような事こそできなかったが、少し軽めの剣と魔物の素材でできた軽装の鎧を装備し、剣の腕前だけでも、いつでも優秀な傭兵になれるだけの実力を身に着けていた。
(もう少しエストの魔力が増えましたら、火柱のような上級範囲魔法も教えますか。それに、エストになら、私のオリジナル魔法も一部は解禁して教える事にしましょう)
エストの魔法の才能に、私の眦は下がりっぱなしになっていた。
そして、今、エストは成人の記念旅行の挨拶を行っている。
ガイン家の家族全員が、エルクの仕事部屋である領主の執務室へと集まっている。
エストは子供の頃からの夢をかなえるため、成人の祝いとして、私の里への旅行を強く希望していた。
しかし、大事な跡取り息子を、魔物の領域を突っ切る街道に送り込む事になるエルクは、当初、かなりの難色を示していた。
それでもエストは諦めず、根気よく説得を続けていた。私も少しは力になれればと、エルクに何度も口添えをしていた。
そんなある日、エルクは次のように言った。
「おじい様と一緒で、さらに、森の隠れ里への行商人の護衛の傭兵たちと一緒であれば、許可しよう」
ついにエルクが根負けして折れた瞬間だった。私とエストは、ハイタッチをして喜びを分かち合った。
既にガルムの都市で、行商人には連絡を取っている。アレスさんという人で、私の年齢から計算すると、おそらくは、アレンさんのひ孫あたりだろうなと思っている。
ちなみに、アレンさんは、とっくの昔に寿命で亡くなっている。
家族を代表して、家長のエルクがエストに語り掛ける。
「エスト。お前は私が教えた剣の腕と、母さんとおじい様が教えた魔法の腕を持つ、優秀な戦士として成長してくれた。私の自慢の息子だ」
エルクもすっかりと貴族が板について、昔とは違う口調で話しかけていた。
そのまま続けて、エルクは注意点を述べ始めた。
「しかし、それでも、魔物の領域は何が起こるか分からない。おじい様や周囲の傭兵さんたちの指示を、よく聞くようにしなさい」
頷きを返して返事をしたエストをじっと見つめ、エルクはこの話をまとめた。
「気を付けて行ってきなさい」
続けてルースも息子を送り出す。
「もう、あなた。エストも、もう子供ではないのですから大丈夫ですよ。それに、おじい様の魔法の腕は、あなたも良く知っているでしょう? エスト、体に気を付けて行ってくるのですよ」
最後はメイが語り掛ける。
「お兄様。いくらおじい様の里の女の子が、おじい様によく似た色白の美形ぞろいだとしても、変な女に引っかかったら、私、許しませんからね?」
十一歳になったメイは、だんだんと美しく成長している。
綺麗な金髪を腰まで伸ばし、ルース譲りの顔で、私のひいき目なしに見ても、かなりの美少女になっていた。
この子は、次のようにいつも公言していた。
「頭が良くて、強い人が理想のタイプです」
それは別に構わないのだが、その理想のタイプに兄のエストがドストライクなようで、ブラコンがこれ以上悪化しなければいいがと思っている。
少し前のメイとの会話は、以下のようなものだ。
「おじい様。私、プライドだけしか取り柄のない、他の貴族家には絶対に嫁ぎたくありませんよ?」
私はそれに微笑を返し、そんなつもりはないと教える。
「我が家は自由恋愛が家訓なので、全く問題ありませんよ。あなたが好きになって選んだお婿さんを、いつか紹介してくれるのを、私は楽しみにしているのですよ?」
私がそう告げると、メイは少し安心したようになり、続きを語る。
「私も馬鹿ではないので、お兄様と結婚できないのは良く理解しています。ただ、強い殿方はそれなりにいても、頭の良い殿方がなかなか見つからないのです」
そして、メイはそのまま私に対しておねだりを始めた。
「もし、このお方ならと思える強い殿方がいましたら、おじい様、そのお方にお兄様と同じくらいの教育を施していただけませんか?」
私はそれに大きく頷き、了承の意を示す。
「もちろん、構いませんよ。では、メイと私で、一緒に理想の殿方を育成しましょう」
そんな回想をしていると、エストが出発の挨拶を述べ始めた。
「それでは、お父様、お母様、メイ。行ってまいります」