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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第64話 恥ずかしい話

 挨拶あいさつを繰り返しながらゆっくりと移動していると、やがて、祭司長の小屋へとたどり着いた。

「祭司長様、祭司です。ただいまもどりました」

 呼びかけると、いそいそと祭司長が中から出てきた。

「おう、祭司か。おかえり。ところで、わしのひ孫がくるやもしれんという話は、いったい、どうなった……の……じゃ?」

 祭司長は小屋から出てくると、エストを見かけて、最後が疑問形になりながら挨拶あいさつを返してくれた。

 私はクスクスと笑いながら、エストを紹介する。

「この子が私の孫で、祭司長様のひ孫のエストです」

「初めまして、ひいおばあ様。私が祭司長様のひ孫のエストです。よろしくお願いします」

 エストが口にした「祭司長様のひ孫」の部分で少しれたような様子ようすを見せる祭司長は、それをごまかすかのような口調くちょうで、そのまま夕食に誘う。

遠路えんろはるばる、ご苦労じゃったな。わしが、おぬしのひいおばあちゃんじゃ。よろしくな。そろそろ、腹が減ったろう。わしが料理をふるまうゆえ、中に入って一緒に夕食を食べようぞ」

 祭司長は、ものすごくうれしそうにしているように見える。

 私には分かる。先祖返りは結婚しないし、子供もほぼ望めない。だから、自分に子供やひ孫ができた事がとてもうれしいはずだ。

 祭司長の小屋に入ったエストは、少し周りを見渡してから雑談を始める。

 前文明的な小屋にも動じた様子ようすはない。

「話してくださっていた通り、おじい様の作った魔道具を、ひいおばあ様は使っているのですね」

 そう言って、小屋に置かれている私がかつてプレゼントした火種やみきさー、光の魔道具、そして、がすこんろを見る。

 祭司長は鼻歌でも歌いだしそうなぐらいの上機嫌じょうきげんで料理をしている。

 ちなみに、祭司長が今作っている料理は、以前の里帰りの時に私と二人で共同開発した、はんばーぐ森の隠れ里スペシャルバージョンである。

 みきさーの魔道具を持って帰った時、この里で入手できる食材を使って、私と祭司長の二人で仲良くはんばーぐのレシピを研究、改良したものだ。

 あれは、なかなか楽しかった、いい思い出だ。

 はんばーぐは我が家の定番料理になっているが、この味であれば、エストも喜んでくれるだろう。

「ひいおばあ様、おじい様の子供の頃の話をしてくださいませんか?」

「別にかまわぬが、どのような話を所望しょもうじゃ?」

 祭司長は料理の手を止めず、背中せなかしに会話をしている。

「そうですね。あの、おじい様が魔石に魔力を込めようとして、連日気絶した話を聞かせてもらえませんか? ひいおばあ様から見た、おじい様の様子ようすが知りたいです」

「あれか。この馬鹿ばかは、わしが何度繰り返し説教せっきょうしても、気絶するまで魔力を使うのをやめようとはせなんだ。このままでは、いつ心臓が止まってしもうてもおかしゅうないと、毎日ハラハラしていたものじゃ。あのように心配したのは、わしの長い人生でもあれだけじゃな」

 私の子供時代のずかしいエピソードの暴露話ばくろばなしに、ものすごくれくさくなってしまう。

「祭司長様にそんなに心配されているとは気づきませんでした。それなら、そう言って欲しかったです。なにも、あんなにこわい顔と声でしからなくても」

 私がれ隠しにそう口に出すと、祭司長もれた様子ようすになって小声でつぶやいた。

「そんなこっぱずかしい話を、面と向かって、言えるわけがなかろう」

 ばっちりとその声をいた私とエストは、顔を見合わせてクスクスと笑いあう。

 そんな楽しい会話を続け、三人で夕食を取った後、私とエストは私の小屋に入り、一緒に就寝しゅうしんした。

 いつまでも大切に保存されている私の小屋を見て、里のみんなの変わらぬ愛情を感じ取り、感謝の気持ちがあふれてきた。