Novels

先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第66話 家族で狩り

 その後、祭司長と三人で血のつながらない家族で朝食を楽しみ、里の中央に集まってもらった里のみんなに、エストを私の孫で、祭司長のひ孫だと紹介した。

 里のみんなは、新しい仲間が増えたと温かく祝福してくれた。

 そして、エストは、アレスさんが開いている市での取引をしばらく見物し、今は家族の三人で森に狩りに出かけている。

「やっぱり、ひいおばあ様もすごいですね。おじい様と同じように、魔法が追尾しながら命中するだなんて」

 感嘆かんたんの声を上げているエストを見ながら、私も同意する。

「私の魔法の先生は、あなたのひいおばあ様ですから。いえ、魔法に限りませんね。私は祭司長様に、たくさんの事を教わりましたから」

 祭司長はウンウンとうなずきながら、その話に同意する。

「そうじゃのう。こやつは小さい頃から、質問魔じゃったからのう。ことあるごとに、これは何ですか? あれはなぜですか? じゃったからな」

 そんな私たち親子の会話を、エストはなんだか微笑ほほえましいものを見るような顔をして見ていた。

「では、おじい様がとても物知りなのは、ひいおばあ様の教育の賜物たまものですか?」

 私は大きくうなずき、同意を示す。

「その通りですね。祭司長様は、どんな質問でもいつも丁寧ていねいに答えてくれましたから」

 そんな会話を楽しみながら、仲良く森をり歩いていく。

 祭司長はひ孫にいいところを見せようと張り切っているので、私やエストは出番がなく、見学している。

 そうやって、祭司長が狩猟や採集する様子ようすながめながら雑談を続ける。

「ひいおばあ様、おじい様が小さい頃に一番好きだった事は何ですか?」

 祭司長は考えたそぶりも見せず、ノータイムで即答した。

「それは、間違いなく魔法じゃな」

 そんな祭司長の様子ようすを見たエストは、少しおどろいたような表情になって確認を取る。

「そんなに小さい頃から魔法が好きだったのですか?」

「そうじゃ。例えば、初めて魔力制御の訓練方法を教えた時も、だいぶんひどかったからのう」

 なんだか、また恥ずかしい暴露話ばくろばなしが始まりそうだ。

 そのように感じた私は、少しだけかぶせ気味になりながら止めようとしてみる。

「祭司長様、恥ずかしいので、そのくらいで勘弁かんべんしてください」

 そんな私のお願いに、エストはさらにかぶせ気味になって催促さいそくを加えた。

「私は聞きたいです。ひいおばあ様」

 祭司長はニヤリと笑い、暴露話ばくろばなしを続けてしまう。

「あの時はの、訓練方法を習ったばかりのこやつは、寝る暇も飯の間でさえも、時をしんで少しでも長く訓練しようとしおった。見るに見かねてもう休むように言ったのじゃが、聞きはせなんだわ」

 どうやら、祭司長は全く手加減てかげんしてくれないようだ。

「その後、どうしたのです?」

「やむを得ぬので、すぐに休むのなら魔石に魔力を込める方法を教えると言ったのじゃが、あの時は傑作けっさくじゃったな」

 祭司長は、くつくつと思い出し笑いをしながら話を続ける。

「そうしたらこやつは、あわてて寝床ねどこにすっ飛んでいきおったわ」

 祭司長とエストの二人は顔を見合わせて笑い出し、私の恥ずかしい話で盛り上がってしまっている。

「私は物腰ものごしやわらかいおじい様しか知らないので、とても新鮮しんせんで面白いです。ひいおばあ様、もっと教えてください」

 この話題、まだ続くのか。そろそろ勘弁かんべんして欲しい。

「それからもな、こやつは、魔法名を『あ』等という美意識の欠片かけらもない、ふざけたものに変えようとしおったり、ことあるごとにわしらの目を盗んで、伝統ある魔法式を勝手に書き換えようとしおったりしておったわ」

 祭司長は少し遠くを見つめるような仕草しぐさになり、なつかしそうな顔をして私の子供時代の評価を述べた。

「こやつは、他の事であれば、とても聞き分けの良い子供じゃったのじゃが、こと魔法に関してだけは、手が付けられんほどの悪ガキじゃったな」

 エストはクスクスと笑いながら、祭司長は知らないはずの、私の幼少時代の秘密を暴露ばくろし始める。

「ひいおばあ様、実はその頃になるとすでに、おじい様は森でこっそりと新しい魔法の実験をしていたようですよ?」

「エスト!! その話はマズイです!」

 私はあわてて止めようとした。いつも丁寧ていねいにしているはずの口調くちょうくずれてしまっていた。

 そんな私を祭司長は両手で制止し、私をヘッドロックするような体勢に持っていき、続きをうながす。

「何じゃと? ええい、おぬしはちょっと、おとなしくしておれ」

 母は強し。私には止められない。

「エスト、それはぜひとも、わしにもうしてみよ」

 エストは口に両手を当て、涙目になりながら肩をふるわせて笑いをこらえていて、そのまま続きを話してしまう。

「何でも、魔法で空を飛ぼうとして、体に風を当てて浮き上がる方法を研究していたそうです。かなり強い風にしてもだめだったので、こっそりと実験するのはあきらめたらしいですよ?」

 祭司長は私をヘッドロックしたまま、まじまじと見つめながらめ息をいた。

「なんともはや……。わしらの目の行き届かぬ、里の外に出た後であれば、魔法式をいじるのも、もはややむなしと思うておったのじゃが、すでに手遅れじゃったか……」

 私の話題で盛り上がる二人をながめながら狩りと採取を進め、恥ずかしくも楽しい時間は、あっという間に過ぎ去っていった。

 ちなみに、祭司長が頑張がんばりすぎたため、三人では食べきれないほどの食料を調達してしまった。

 そこで、家族で仲良く里のみんなの家々を訪ね歩き、おすそ分けをして回った。