先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第72話 メイの彼氏とインサツ工房
ネリアが生まれてから、二年ほどの歳月が流れ去った頃。
昨年、ローズさんはネリアと年子となる第二子を出産していた。エストにとっても、待望の跡継ぎとなる男の子だ。
私は別に女性が領主でもいいと考えているのだが、まだまだそのような考え方はこの国だと一般的でなく、無理にネリアを領主にしてしまうと彼女が苦労しそうだからと説明されていた。
エストの息子が生まれた直後、私は以下のようにお願いされていた。
「ぜひともこの子には、私の尊敬するおじい様から名前を与えてもらいたいです。できれば、おじい様のような森の隠れ里の雰囲気のする名前をお願いしますね」
そんなエストからの無茶ぶりに頭を抱え、さんざん悩みまくった挙句、私の「ヒデオ」のような名前という事で、「シゲル」と命名していた。
私はこの時ほど、自分のネーミングセンスのなさを呪った事はない。それでも、エストは大喜びだったのでよしとする。
ゴランさんを理想の殿方へと変貌させるための教育も無事に終了していて、必死になって勉強していた彼の姿に私もすっかり情が移ってしまい、私の働き掛けもあって、メイはゴランさんとお付き合いを始めていた。
あまり素直でないメイは、いつも以下のようにゴランさんに念を押していた。
「あなたは、まだ、お試し期間中の彼氏よ?」
しかし、その様子を見る限りでは、まんざらでもないように見える。
メイも既に十八歳になっており、このまま順調にお付き合いを進め、お婿さんとして紹介してくれる事を私は心待ちにしている。
エルクとルースも四十九歳になっており、仲良く年を取っていく二人を見るたびに、あの苦い初恋の思い出も、それを自ら振り切った私の判断も、何も間違っていなかったと強く感じている。
私による活版印刷技術の開発も無事に終了し、簡単な算数と国語の参考書の印刷も始まっている。
驚きと共に受け入れられたこの新しい技術は、「インサツ」技術として発表された。
この形態は「カッパンインサツ」であると説明し、続けてさらに「ガリバンインサツ」も開発中とアナウンスしている。
また、グーテンベルクの印刷機の基本的な原理をインサツ工房の技術者たちに伝え、彼らに新しい「インサツキ」の開発を任せている。
そのための高さを厳密にそろえた「キンゾクカツジ」を加工するための技術開発も、合わせて彼らに丸投げしている。
(詳しい構造を知らない私が研究しても、開発に必要な時間は変わらないでしょう)
そのような判断によるものだ。
技術者たちからは、インサツとインサツキでは語呂が似すぎていて区別しにくいと言われるようになり、彼らはインサツキを縮めて「サツキ」と呼ぶようになっていた。
やがて、これらの言葉が一般に広がっていった時、このサツキをさらに縮めて、「サッキ」と呼ばれるようになっていく事になる。
印刷技術の再現にある程度の目途が付いた私は、高等数学を教えるための先生を募集していて、現在、教育中である。中学校卒業程度の学力を目指している。
また、エルクと相談の上で、高等教育のための学校の建設計画も進めている。
この新しい学校は前世の高校のような扱いとし、領主からの補助金の予算はつけるが、基本的には、生徒たちから徴収した授業料で運営する事が決まっている。
エルクが募集した平民の官僚たちも育っていて、彼らに仕事を任せられるようになったので、私とエストによる領主業務のお手伝いも、かなり仕事量が減ってきていた。