先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第77話 ラーメンとうどん
これは、レイゾウコとくーらーの魔道具の生産で、忙しくも充実した日々を送っていた、ある日の話である。
私は領主館の自室で寛いでいた。
「ふぅ……。やっぱり、冷えたビールは美味しいですね」
この国では麦が盛んに栽培されているためか、普通にビールが存在している。ただ、これまでは冷やす事ができなかったため、温くて私は飲んでいなかった。
私も森アルク族の一員であるため、酒はたしなむ程度しか飲まない。
それでも、お祝いの時の儀式としてしか飲まない、というわけでもなく、たまの娯楽として飲酒を楽しむようになっていた。
(冷えたビールが飲めるようになると、シメのラーメンも、なんだか食べたくなりますね)
そんな事をぼんやりと考え、ラーメンの再現でもしてみるかとレシピを考え始めた。
味噌蔵も作ったし、今では醤油も一般販売されているほど普及させた。よって、味噌ラーメンも醤油ラーメンも、もちろん、塩ラーメンも作れる。
豚にあたる家畜を見た事がないので、とんこつラーメンは少し難しいかもしれない。だが、猪によく似た魔物ならいるので、その骨を代用すれば作れるだろう。
(ただ、肝心のかんすいが手に入らないのですよねぇ……)
かんすいというのは、主成分が炭酸ナトリウム等のアルカリ塩水溶液の一種の化学物質で、これを麵の生地に混ぜ込む事で強いコシがでるようになる。
詳しい製法までは知らないが、岩のようなものを砕いて煮込んで作るとどこかの本で読んだような気がする。
そんなものを食べ物に混ぜようと思いついた過去の偉人は、本物の天才だと思っている。
私は知らなかった事だが、実は木灰からでもかんすいは作れる。木や草を燃やした灰を水に溶いた上澄み液が、かんすいとして使えるのだ。
私が知っていたのは、最初期に、現在の中国の内モンゴル自治区で始まったと言われている、炭酸ナトリウムの白い鉱石を煮込んで作る方法だったのだ。
その勘違いのため、私は次のような事を口走ってしまう。
「『ラーメン』は『コシ』が命です。『かんすい』を使わないような『ラーメン』等、断固として認めるわけにはいきません!」
もし前世の人が聞いていたら、そこまでこだわらなくてもと言いそうな宣言を一人で呟き、ラーメンの開発を断念する。
(では、うどんなら作れますかね?)
そう考えを進め、すぐに否定する。
(やはり、肝心の鰹節が手に入らないのですよねぇ……)
私は、鰹節を開発した人も、本物の天才だと思っている。
どう見ても木切れにしか見えない、世界一硬い発酵食品と呼ばれる鰹節を、わざわざ薄く削って、オガクズにしか見えないようなものを最初に口に入れた人は、偉人で間違いないだろう。
「『うどん』は『ダシ』が命です。『削り節』も使わないような『うどん』等、断固として認めるわけにはいきません!」
そんな、どうでもいい、くだらない宣言を再び行い、平和な日常が過ぎていった。