Novels

先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第78話 ガリバンインサツ

 くーらーの販売開始から、一年ほどが経過したころ

 ようやく、ガリ版印刷技術の開発が完了していた。

 工房長の仕事でかなりいそがしかったのだが、なんとか時間を作って、少しずつではあるが研究を継続けいぞくしていた。

 事前にアナウンスしていた通り、この新しいインサツ技術は、ガリバンインサツであると発表した。

 この技術を伝授でんじゅされたインサツ工房の技術者によると、ガリバンインサツは、出版されている物語本の挿絵さしえとして、まずは利用されるのだそうだ。その後には、楽譜がくふ等にも応用される予定らしい。

 また、このころには、インク技術者によってカラーインクの開発も進んでいた。そのため、私はそのままカラー印刷の手順も教えた。

 色のついた絵が量産りょうさんできると知ったインサツ技術者たちは、とてもおどろいた顔をしていた。

 何度か会議を繰り返し、相談そうだんした結果、まずは料理のレシピ本をカラーインサツして出版してみると決まった。

(やっと、印刷技術の開発目標が達成たっせいできましたね。次は、高等学校の先生たちの教育を完了かんりょうすれば、平民の知識レベルを高める事ができます)

 私の野望が少しずつではあるが順調に達成たっせいされていく様子ようすに、そっと心の中でほくそんでいた。

 また、このころ、私はある人物にずっと疑問ぎもんに感じていた事を質問しつもんしてみた。

 あの金色の粉を直接買い付けに来ていた三代目ルツ工房長に、なぜコピー商品を作らないのかと質問しつもんをぶつけてみたのだ。

 三代目ルツ工房長はワイズさんという名前で、私がルツ工房で働いていた時には、まだ就職していなかった人だ。

「ワイズさん。私は、ルツ工房であれば、くーらー等のコピー商品を作れるはずだと、ずっと思っていたのです。レイゾウコの時も、ルツ工房では最初からコピー商品開発をしていなかったようですし、もしよければ、その理由を聞かせてはもらえませんか?」

 ワイズさんは、微笑ほほえみながら真相しんそうを語ってくれる。

「ヒデオ様、簡単な話ですよ? 我々、ルツ工房の作る商品には、あなた様の作る秘伝ひでんの粉が必須ひっすだからです」

 そして、ワイズさんは少し真面目まじめな顔になり、じっと私の目を見ながら続きを語る。

「もちろん、工房長に代々伝わる話から、あなた様であれば、その程度で取引を停止するとは考えていません。しかし、それでも、私たちの工房の命綱いのちづなにぎっているあなた様を、わざわざ挑発ちょうはつするような真似まねはしたくなかっただけなのです」

 この後に、正直しょうじきに打ち明けてくれたワイズさんと私は固い握手あくしゅわし、これからも変わらぬ取引を続ける事を約束した。

 ちなみに、この国には握手あくしゅ習慣しゅうかんがなかった。みぎこぶしにぎり込み、その背の部分を軽く打ち合わせるのが、この国本来のやり方だ。

 しかし、私がつい前世のくせ挨拶あいさつ代わりに使用していて、そのたびに正しい挨拶あいさつをやり直していたのだが、ルツ工房やガインの町では、いつの間にか広まってしまっていたようだ。