先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第89話 三代目領主と初代様
高等学校の開校から、二年ほどが経過した頃。
五十六歳になっていたエルクは、ちょうど三十歳になったエストに家督を譲り、正式に引退した。
このことからエルクが先代様と呼ばれるようになり、私は初代様と呼ばれるようになった。
私も同席していた家督を譲る場でのエルクの言葉は、以下のようなものだった。
「エスト、これからはお前が領主だ。私ももう年なので、そろそろ、のんびりと余生を過ごしたい」
そのエルクの本心を含んだ言葉に、真摯にエストは応じる。
「お父様、本当に長い間、お疲れ様でした。今後は私が領主として、このガインの町を発展させていきたいと思います」
そんなエストの頼もしい様子を見たエルクは少し目を細め、嬉しそうにしながら領主としての注意点の説明を始めた。
「いいか、エスト。ふんぞり返っているだけの他の貴族たちの話は聞かなくていいが、税金を納めてくれる領民たちの話には、良く耳を傾けるようにしなさい」
エストは大きく頷き、同意を示す。
「ええ、良く分かっています。おじい様の教えは、ちゃんと私にも受け継がれています。それに、なにか困った事があれば、物知りのおじい様に相談しますので、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ?」
二人の引継ぎの会話が一段落したようなので、私はここで会話に加わり、笑顔でエルクを労う。
「エルク、お疲れ様でした。今後はのんびりと、隠居生活を送ってください。これからは、エルクとルースと私の三人で、あちこちに遊びに行きましょう。昔のようにね」
エルクも微笑み、二人で今後の余暇の過ごし方についての相談を続ける。
「それはいいな。それじゃあ、早速、仲良しトリオの復活といこうじゃないか」
それからの私たちは、宣言通りに、あちこちに三人で遊びに行くようになった。
目に入った町のレストランにふらりと入ってみたり、領民と一緒に北の川で釣りを楽しんでみたり、時には三人でそろって昔のように魔物狩りを楽しんだりした。
私の無限の寿命では、いつかはこの二人とも別れなければならないと重々承知しているのだが、それでも、今だけはこのような楽しい日々がずっと続けばいいのになと、しみじみと感じている。
そんなある日の日常の一コマである。今日も町に出ていた私たちを見ながら、エルクは会話を始めた。
「なんだか、昔に戻ったみたいだよな」
ルースもうんうんと頷きながら同意する。
「私もそう思う。エルクとヒデオの三人で遊ぶの楽しいね」
私も微笑みながら、そんな親友たちの会話に加わる。
「二人とも若返っているようですね。口調がすっかり、昔と同じになっていますよ?」
ルースとエルクの二人は顔を見合わせ、同時に破願した。クスクスと笑いながら、ルースとエルクは会話を続ける。
「言われてみれば、その通りだね。自由な平民に戻ったみたいで、私はこっちの方が好きかも」
「そうだよなぁ。お貴族様に憧れてはいたけど、俺も今の方が気楽でいいや」
そのような楽しい日々を暮らしていたある日。メイが第二子を出産した。
今回は比較的安産であったのだが、それでもゴランさんは心配だったようで、私は再び、大地の神様への祝詞を唱え続けるはめになった。
生まれた子供は今度も男の子で、後にリックと名付けられた。
ゴランさん譲りの茶髪と、メイ譲りの青い瞳をした、とても元気よく泣く赤ちゃんである。
涙もろいゴランさんは、またしても涙を流して感動していた。その様子を、ガイン家の家族はみんな、微笑みながら見ていた。
隠居したエルクは、それから、孫たちの様子を見るために、度々メイの家を訪れるようになっていた。
もちろん、私も頻繁にメイの家を訪ねている。