Novels

先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第88話 学問の父

 高等学校の開校を、一週間(六日)後にひかえた深夜しんや

 メイが産気さんけづいたと、血相けっそうを変えて領主館にけ込んだゴランさんから知らせを受けた。

 メイの新居しんきょに集合した家族たちであったが、少し難産なんざんだったため、お父さんになるゴランさんとおじいちゃんになるエルクは、落ち着きなく、ずっとウロウロしっぱなしであった。

(こういう時は、女性の方が落ち着いているという話は本当だったのですね)

 特にゴランさんは、何度も何度も、大地の神様に真剣しんけんにおいのりをささげていた。

 あまりにも真剣しんけんにおいのりをり返すので、私はつい、里に伝わる大地の神様への祝詞のりとを教えた結果、以下の様に必死にお願いされる事になる。

「ぜひ、祭司様であるおじい様も、一緒いっしょにおいのりしてください!」

 そんな理由で、一緒いっしょ祝詞のりととなえ続けるはめになった。

 ちなみに、この世界での大地の神様は、豊穣ほうじょう出産しゅっさん、そして、子孫しそん繁栄はんえいつかさどっている。

 やっとの事で生まれた子供は男の子で、後にキースと名付けられた。おばあちゃんである、ルースにあやかった名前だそうだ。

 父親となったゴランさんは、号泣ごうきゅうしながら歓喜かんきしていた。

(以前から思っていましたが、ゴランさんは、少しなみだもろすぎますね)

 キースは、ゴランさんゆずりの茶髪と茶色いひとみの、少し大きな赤ちゃんである。

 さらに家族が増えたガイン家は、さらに幸福こうふくつつまれていた。

 そして、一週間後。予定通りに高等学校が開校した。

 この学校は、領主からの補助ほじょきんが出ているのだが、授業料がそれなりに高額だったためもあり、当初とうしょはそれほど希望者がいなかった。

 しかし、年度が進むにつれて、代数計算や関数、そして、図形の証明等、どんどんと高度になっていく内容を見た生徒たちによるうわさのために、入学希望者が増えていった。

 開校から四年が経過するころになると、受け入れ可能な人数をえるほどの入学希望者が殺到さっとうしたため、急遽きゅうきょ、先生たちと入学試験制度をもうけて対応した。

 ガインの町の高等学校で教える内容が広まっていくにつれて、貴族たちからの反発はんぱつが再び始まった。

 二度目の掌返てのひらがえしであるが、もはや、我が家の家族はもちろん、町の住民たちも全員無視していた。

「貴族のほこりを理解できない、平民上がりの半端はんぱ貴族きぞくはこれだから」

 などという事を、わざわざガイン家の領主館をおとずれ、本人は嫌味いやみだと思っている内容を直接言いに来る酔狂すいきょうな貴族もいたが、そんなものは、されたほどにも感じなかった。

 むしろ、私のねらい通りに平民たちが力を付けたあかしだと、自信を深めたほどである。

 また、私は校長として就任しゅうにんしたため、学校内では、先代様ではなく校長先生と呼ぶように何度もお願いした。

 そして、授業内容の進捗しんちょくの確認もねて、時々、私が直接特別授業を行う事もあった。

「校長先生、今日の授業内容は何ですか?」

 十五歳程度に見える生徒の一人の女学生が、好奇心こうきしんたされた目で質問をしてくる。

「今日は、三角形の合同ごうどう条件等を教えます。キカガクの内容ですね」

 ちなみに、この高等学校では特に年齢制限はもうけていないため、様々な年代の生徒たちが入学している。

(まるで、前世の夜間学校みたいですね)

 私はそんな感想をいだいていた。


 これは少し先の話になる。

 高等教育が始まった事から、ガインの町に行き、入試に合格して授業料がはらえれば、お貴族様しか知らないはずの内容がならえるし、無一文むいちもんで移住したとしても、開墾かいこんの道具が無料で貸与たいよされ、当面の生活費も保証されると、平民たちの間での評判ひょうばんがさらに上がった。

 学のない平民であっても、基本的な学問がくもんは無料で教えてくれるし、しばらくはタダで生活できるので、その間に金をめて勉強し、高等学校に入学すれば、立身出世りっしんしゅっせも夢ではないと広く言われるようになった。

 そのため、ガイン家、特に高等学校の設立せつりつ主導しゅどうした私への評価がうなぎ上りになって行き、私は「学問がくもんの父」という、あらたな二つ名をいただく事になるのであった。