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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第160話 百周年記念祭

 それから、またたく間に二年の月日が流れ去っていた。

 私は百五十九歳になっていた。これは、長命な森アルク族であっても、老人と言われる年齢にあたる。

 そのため、里の同年代の幼馴染おさななじみたちの中にも、ちらほらと、天へと旅立っていったものがあらわれ始めていた。

(いよいよ、私一人だけが、時に取り残されてしまうことが確定かくていしますか……)

 私はそのように考えてしまい、そのさみしさにおそれおののいてしまっていたが、すぐに頭をって否定する。

(いえ……。決して、私一人ではありませんね。クリスさんも祭司長様も、私と同じ孤独こどくに、私よりも長い間、ずっとしのんでいます)

 本当の意味で私一人だけであったのならば、もしかすると、私の心はあまりのさみしさにえきれなくなっていたかもしれない。

(私は、もっと、彼女たちに感謝かんしゃすべきなのでしょうね……)

 そう、強く感じていた。

 そして、私が領主として就任しゅうにんしたのが五十九歳の時。つまり、今年でちょうど百周年にあたる。

 そのことに官僚かんりょうの一人が気づいて報告ほうこくしてきたため、ガイン家とその領地の百周年を記念きねんして、大規模だいきぼまつりが開催かいさいされることが決定していた。

 そして、今日。そのまつりの開催かいさいである。

 開幕かいまく挨拶あいさつをガイン家の初代である私にたくされたため、壇上だんじょうに置かれた拡声かくせいの魔道具に静かにかたけ始める。

「私がこの領地へと初めて赴任ふにんしてきた時、ここは小さなガイン村でした」

 そんな出だしで演説えんぜつを始め、反応はんのうを確認しながら言葉をり出していく。

「それからの百年は、私にとって、あっという間の出来事できごとでした。そして、さいわいなことに、私は数多くのごえんめぐまれました。この百年間に、私は、かけがえのない多くの人々と出会うことができたのです」

 エルクやルースをはじめとした、たくさんの過ぎ去っていった人々の顔が次々と思いかぶ。

「しかし、時の流れは残酷ざんこくです……。そのほとんどが、私を置いて天へと旅立ってしまいました」

 私は天を見上げ、それから、今を生きる人々に視線しせんうつす。

「その人たちがあいしたこの地は、今を生きる人たちによって受けがれています。そして、かつてのガイン村は、やがて町になり、都市となり、今では大都市とばれるほどになりました」

 そして、私は、多くの人々に感謝かんしゃねんささげる。

「この地に住まい、この地をあいした、様々な人々の思いが、この領地を平民の首都しゅとばれるほどに大きく発展はってんさせたのです。私一人では、ここまで発展はってんさせるのは無理でした。この地にらした全ての人々に、深い感謝かんしゃねんささげます……」

 私は少しの間だけもくとうし、感謝かんしゃささげた。

「私をふくめ、人はやがて死に、天へと帰ります。まあ、私はちょっとばかり長生きしてしまいますが、いずれは天へと向かいます」

 少し冗談じょうだんめかしてそうべると、若干じゃっかんの笑い声が聞こえた。私はそれに微笑ほほえみを返しながら、さらに続きをかたる。

「しかし、この地をあいする思いは、親から子へ、子から孫へと、代々、変わることなく脈々みゃくみゃくと受けがれています。私は神様にあたえていただいた、この長い長い寿命じゅみょうを使って、これから先もずっと、それらの様子ようす見守みまもってゆきたいと思います」

 そして、一番、かたけたかったことを、私はここでべる。

「私の長い旅路たびじが、いつ終わるのかは分かりません。ですが、みなさんのおかげで、とても楽しい旅になることだけは、すで確定かくていしています。本当にありがとうございます」

 そして、私はめの言葉をべ、演説えんぜつを終える。

「せっかくのおまつりですから、あまり長い演説えんぜつ野暮やぼでしょう。ですので、このくらいにしておきますね。みなさん、今日という日を、存分ぞんぶんに楽しんでください」

 そして、私は用意していたグラスをかかげ、開幕かいまく宣言せんげんえて乾杯かんぱい音頭おんどを取る。

「私たちのあいする、このガイン自由都市に、乾杯かんぱい!!」

「「「乾杯かんぱい!!」」」

 こうして、五日間にわたる大規模だいきぼ百周年ひゃくしゅうねん記念きねんさいかいさいされた。

 その様子をながめてみれば、誰も彼もが笑顔えがおになっていて、まつりを楽しんでいることが分かる。

 私は、この数多あまた笑顔えがおを、私の力のおよかぎり、ずっとまもってゆきたい。

 そう、決意けついあらたにした日だった。


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