先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第159話 近代都市への第一歩
街道整備の進行に応じて原油の輸送量が少しずつ増加してきているため、火力発電の研究を本格的にスタートさせた。
ただ、予想通りと言えばその通りなのだが、ダイオードの開発がかなり難航しているため、直流電流を送電する方式に計画を変更している。
ガイン自由都市の内部に限った送電であれば、送電距離による影響がそれほど問題にならないと判明したためである。
ちなみに、交流と直流の発電機の違いは、簡単に言えば、コイルが半回転した時に電極を逆に繋ぎ直すかどうかで決まって来る。
磁場の中でコイルを回転させると、フレミングの右手の法則に従って交流電流が発生する。そこで、半回転した時にプラスとマイナスを入れ替えることにより、直流電流にするのである。
ただ、この方式をそのまま採用してしまうと、電流に山形の波形が強く出てしまう。そのため、実際には、コイルの形状などを工夫することにより、安定した直流電流とするのである。
また、火力発電の試作機で確認してみた結果、軸が高速回転するため、軸受けの強度が不足するなどの問題が発生していた。
そこで、効率的に回転させることができる上に強度も上昇することになる、ボールベアリングの開発も開始した。
ボールベアリングとは、球形に加工した金属を軸の周りに隙間なく複数配置することにより、回転時における摩擦を大幅に軽減し、回転軸を安定させるための技術のことである。
ただ、この時に使用される金属球は、かなり正確に加工しなくてはならない。少しでも歪な部分があると、そこが抵抗力となって破損してしまうためだ。
そのための基礎研究をダイガクに依頼してみたところ、小人族のペテさんが名乗りを上げてくれた。彼の実家は金属細工工房だそうで、精密加工の技術や知識に自信があったようだ。
また、発電する電力の使い道の研究もスタートさせている。
とはいっても、そこまで大規模には原油が輸送できていないため、あまり電力を必要としないものを優先して開発している。
最初に手掛けたのは、電球の開発である。
これは、発明王として名高いエジソンの偉大な発明品の再現を目指している。
フィラメントとして炭化した竹を採用し、電球内部を真空状態にすることによって、長持ちする電球を開発するのである。
ちなみに、この国は温暖であるためか竹が自生しており、原料の調達は容易だ。
また、電気モーターの応用として、扇風機の研究も始めている。
たかが扇風機に研究とは大げさなと思うかもしれないが、実はこの研究、いろいろと応用範囲が広くなっている。
羽を回して空気の流れが作れるようになると、例えば、強力なものを開発すれば、コンプレッサーも作れるようになる。そうすれば、いずれは電動の比較的安価な冷蔵庫やクーラーも作れるようになるだろう。
ちなみに、一般販売された灯油の活用法として、石油ストーブの販売も始まっている。
魔道具の暖房器具より遥かに安価に購入できる庶民のための暖房として、人気を博しているようだ。
また、試験的に作った火力発電機では、熱効率が非常に悪かった。そのため、発生する熱の大部分を、廃熱として捨てている状態である。
これをもったいないと感じた私は、廃熱を利用した大衆浴場の建設も視野に入れるようになっていた。
これら複数の研究を私一人で行っていたのでは、かなりの時間と手間を必要としていただろう。
ダイガクを開校して研究者を育成して本当に良かったと、心の底から実感しながら、多忙ではあるが充実した毎日を私は送っていた。