先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第173話 リョウマの横顔
俺の名前はリョウマ・ウル・ガイン。
大おじい様が作った領主家、ガイン家の六代目領主をなんとか頑張って続けている。
この国に限らず、おそらくはこの大陸全ての地域で、人類の文明は緩やかに衰退を続けている。
およそ五千年前にあったと言われている古代魔法文明の時代が、人類の絶頂期だったようだ。
そして、二千年ほど前には、この大陸を統一した帝国があった。
その帝国では、賢帝と名高い偉大な皇帝のもと、人類の衰退を食い止めるための様々な政策が、強力に推し進められていたと言い伝えられている。
現在は自由国境地帯となってしまっている地域にすら、荒れてはいるが道が通っているのは、その時代の名残なのだとか。
だが、その帝国、一般的には大陸統一国家と呼ばれているその国は、少しばかり大きくなりすぎていたようだ。
大陸を統一した賢帝が没すると、すぐにその息子たちがそれぞれの根拠地に分散して国が分裂してしまい、我こそが正統なる後継者であると主張し、激しく相争う戦国時代となってしまった。
戦乱の時代が長く続いた結果、いくつもの小国に再分裂が進んでしまい、大陸中が荒れ果てて、せっかく賢帝が保護して発展させようとした人類の英知も多数失われ、衰退がさらに加速度を付けて進んだというのだから、皮肉な話だよな。
そんな世界の状況を神々も嘆いてくださったようで、この地にその御使い様を遣わしてくださった。
その御使い様こそが、俺たちガイン家の始祖、大おじい様だ。
大おじい様はその無限の寿命を使い、百年単位の遠大さで段階を踏んで学校を作り続け、神々の世界の英知をこの地に広めてくださっている。
その大おじい様はとても優しくて、面倒見のいい、それはそれは素晴らしい人で間違いない。
あのことがあるまでは、大おじい様が大声で怒鳴るなんて姿を、想像することすらできなかったんだよ。
そう、あのこと。
近隣の領地の大馬鹿者が、本を燃やすように指示を出したことだ。
それを聞いた大おじい様は、本当に激怒していた。
知識を広めようと、それこそ百年以上の時をかけて奮闘を続けている大おじい様からすれば、その知識を葬り去ろうとする行為は、本当に許されざる大罪になることは理解できる。
だが、それでも、あの怒りようは驚きを通り越してしまって、恐怖と絶望を感じてしまうほどのものだった。
だって、そうだろう?
神様の遣わしてくださった大おじい様が、あそこまで怒るのだから、それこそ、この地に天罰が下ってもおかしくないほどの愚行を、あの貴族はやらかしてくれたってことなのだから。
その時に大おじい様が語っていた、昔にフンショをしたとかいう史上最悪の暴君が存在したのは、ものすごく昔の話なんだと思う。
俺も領主になるために、小さい頃から勉強を頑張っていたが、そんな王様が存在した国の話なんて、欠片も聞いたことがなかったからな。
この地上では、古代魔法文明の時代より前のことは、全くと言っていいほどに記録が残っていない。
言い伝えでは、古代魔法文明の時代に、調子に乗りすぎた人類は、人造人間を作ってしまったのだそうだ。
それは生命の神秘を冒涜する行為で、神の領域を犯しており、その結果、人類は神々の深い怒りを買ってしまった。
そして、人類に従順に隷属するように作られていたはずの人造人間たちが一斉に反乱を起こし、大陸中を巻き込んだ世界大戦の時代に突入してしまったのだとか。
死神殺しと呼ばれた偉大な英雄がいてくれたおかげで、人類はからくも勝利を収めたのだが、大陸はすっかりと荒廃してしまって、衰退が始まったのだと言われている。
ちなみに、人類最強の死神殺しと人造人間最強の天使との間のラブロマンスは、古典の定番の悲劇として、五千年たった今でも愛されている。
そして、そのような五千年前の事情から、その時代より前がどうなっていたかなんて、もう誰にも分からなくなってしまっている。
神々さえも激怒するようなフンショを行った暴君が、大おじい様のいた天上の世界に存在を許されるとも思えないので、それは地上の世界の話で間違いない。
そして、その記録が残っていないのであれば、それは、やはり、大昔の国の話なのだろう。
神々の世界に住んでいるアルク族の先祖返りたちは、それこそ千年を超えて生きる。
だから、そんな昔の話であっても、あそこであれば覚えている人も多いのだろうな。
まあ、それはいいのだが、問題は大おじい様だ。
あそこまで怒ってしまった以上、下手をしたら、この国の全てを巻き込んでの天罰が待っているかもしれない。
あの怒りがこの国そのものに向いてしまったら、どれくらいの被害になるのか見当もつかない。
そして、そんな大おじい様を宥めることができそうなのは、直系の子孫である俺たちだけだ。
大おじい様は俺たち子孫に甘くて、深い愛情を注いでくださるからな。
破滅の未来を回避するためには、そんな一族の長である俺が頑張るしかないのは理解しているつもりだ。
天上の世界の知識を広めてくださろうとしている大おじい様に愛想をつかされてしまったら、この地上の人類は、本当に滅亡するまで衰退を続けるしかないのだから。
俺は責任の重大さに頭を抱えながらも、どのような言葉をかければ、大おじい様の怒りをかわすことができるのか、悩みに悩みまくっている。
ああ、考えただけで胃が痛くなってきた……。
これからしばらくは、不安と心配で睡眠不足になりそうだ。