先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第190話 七代目領主イサミ
それからさらに、二年ほどの月日が流れた頃。
リリアさんは男の子を出産していた。イサミにとっても待望の跡継ぎの誕生である。一族の伝統に則り、私がヨシツネと命名した。
シズカからの平家物語繋がりということで、源義経が名前の由来である。
髪の毛はお母さん譲りの淡い色の金髪で、瞳はお父さん譲りの緑色をした、あまり泣き叫ばないおとなしい雰囲気の赤ちゃんだ。
「両親のどちらに似ても、知性溢れる大人な雰囲気の子供になりそうですね」
私は生まれたばかりのヨシツネを抱きながら、そんな感想を抱いていた。
ヨシツネが生まれた喧騒が一段落した頃。
五十四歳になっていたリョウマは引退を決意し、ちょうど三十歳になっていたイサミに領主の席を譲った。
こちらも一族の伝統に則り、初代の私の目の前で引継ぎが行われる。
リョウマがイサミに微笑みながら語り掛ける。
「本当は、ヨシツネがもう少し大きくなってからとも考えたのだがね。お前ももう三十歳になっていたことだし、そろそろ、責任のある立場になってもいいだろうと、そう判断したのだよ」
イサミがそれに返答する。
「はい。私も本当は、もう少し早く息子の誕生をお知らせしたかったのですが、子供は授かりものですからね。私も少しだけやきもきしていたので、今はホッとしています」
ここで、リョウマが、先輩領主としてイサミを激励する。
「お前は大おじい様によく似て読書家なので、とても頭がいい。だから、きっと、歴代最高の領主になれるだろうね」
しかし、イサミは少し自信なさげに、それに答える。
「私には、確かに知識だけはあるのかもしれません。ですが、経験の伴わない知識など、どうしても机上の空論や理想論になりかねないと、私は危惧しているのです……」
そんな不安を聞いたリョウマは、大丈夫だと太鼓判を押す。
「経験に関しては、心配には及ばないよ? なにせ、この領地には、百三十年以上の経験を誇る、自慢の相談役がどっしりと構えているのだからね」
そう言いながら、私に視線を送る。
その様子を見たイサミは、それもそうですねと、納得した模様だ。
「大おじい様、これから、いろいろとご指導ご鞭撻のほど、どうかよろしくお願いしますね」
私はイサミに微笑みかけながら、それに応じる。
「ええ、もちろん。いつでも私を頼ってもらえると、私も嬉しいですよ?」
それを共に聞いていたリョウマが、私にある質問を投げかける。
「大おじい様にとっては、やはり、私たちはいくつになっても、小さな子供のままですか?」
私はそれに頷きながら、肯定する。
「なにせ、あなたたちが生まれたその日から知っていますからね。子供扱いされるのは、どうしようもないと諦めてください」
私がそう言うと、リョウマとイサミの親子は顔を見合わせ、フフッと笑いあっていた。
こうして、連綿と受け継がれてゆく家族の営みを、私は全力で守り通そう。
私は、もう何度目になるか数えることを諦めた決意を、しっかりと胸に刻み付け続けるのであった。