先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第189話 油圧じゃっき
それから、二年ほどの歳月が経過した頃。
無事に油圧を用いたブレーキの開発が完了していた。
油圧とは、液体に圧力を加えると、全体に均等に圧力がかかる性質を応用したものだ。
圧力を力に変換する場合、面積を掛け算することで求められる。
このことから、力を加える側の面積を小さくし、力を取り出す側の面積を大きくすると、その面積の比率に応じて力が増幅されるようになる。
これは、パスカルの原理と呼ばれる現象である。
ちなみに、圧力の単位として有名なパスカルは、この原理を発見した人物の名前に由来している。
ブレーキには主に二種類あり、それぞれドラムブレーキとディスクブレーキと呼ばれている。
ドラムブレーキは、内側から外側に押し付けることで摩擦を得る。
ディスクブレーキは、外側から円盤を挟み込むことで摩擦を得ている。
性能的にはディスクブレーキが勝るのだが、ドラムブレーキは工作難易度が比較的低く、低コストになるという特徴がある。
今回作る自動車は、サスペンションやタイヤの性能的に考えて、それほどのスピードは出せないと予想されている。
そのため、比較的、構造が単純で作りやすくなるドラムブレーキを採用している。
実際に作るにあたり、技術者や研究者に油圧の仕組みを分かりやすく説明するために、私は油圧ジャッキを試作していた。
「これは確実に売れますよ?」
そのような指摘を受けたため、急遽、「油圧じゃっき」の販売が決定していた。
あすふぁるとの道路を通行する際にはほぼ無用のものになってくるのだが、それ以外の未舗装の道路を馬車で移動する場合、轍にはまり込んだり脱輪したりすることも多い。
そのため、馬車を所有している人にとっては、この油圧じゃっきがあれば、簡単に車体を持ち上げて復旧できるようになるため、備品として必須のものになると、そう指摘されていた。
しかし、販売した当初は、これがどのように役に立つのかが分からなかった模様で、ほとんど売れなかったそうだ。
その相談を受けた私は、実演販売の方法を教えた。そうすると、瞬く間に売れ始めたのだそうだ。
「初代様、また大儲けしてしまいましたね」
周囲からそのように言われることも多くなっていた。
しかし、これ以上の定期収入があっても、私はため込むだけで使いきれない。
そして、お金というものは、大量にため込むだけでは経済に悪影響を与えてしまう。お金は天下の回りものという格言がある通り、回してこそ、みんな幸せになれるのである。
そこで、私は使い切れないトッキョ料の受取人をダイガク名義に変更し、研究開発費として寄付することにした。
このことにより、さすがは学問の父だと、私の名声がさらに上がる結果になってしまったのであった。