先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第196話 生誕二百周年祭
それから、年を三つ跨いだ頃。
私はちょうど二百歳になっていた。
百歳の時の私の不用意な発言から、大規模なお祭り騒ぎになってしまっていたのをちゃんと記憶していたため、近年は年齢に関する話題をそれとなく避けるようにしていた。
しかし、ガイン自由都市の郷土史のとある研究家が、生誕二百周年祭はしないのかと領主館に問い合わせをしてきたことから、結局、大規模なお祝いが行われることになってしまっていた。
「できれば、こぢんまりとしたお祝いで済ませて欲しいのですが……」
私はそのように意見を述べていて、お祭り騒ぎをなんとか回避しようとしたのだが、どうやら無駄な努力だったようだ。
そして、今日。
大急ぎで行われた準備も終わり、祭りの本番が行われていた。
既に昨日の間に近しいものだけを招いたお祝い会は終了しており、粛々と祭りの開催を告げるセレモニーが続いている。
そして、そのシメとして、主役の私からの挨拶の出番が回ってきた。
私は集まってくれたみんなを少し見渡し、静かに拡声の魔道具に向かって語り掛け始めた。
「みなさん。本日は私の二百歳を祝う祭りにこれほど大規模に集まっていただき、本当にありがとうございます。百年前も、こうして大規模にお祝いをしていただけました。この領地と共にさらに百年、歩めたことは、私にとって誇りになっています。長いようであっという間の百年であったと感じております」
そして、私は少し遠くを見つめながら、この百年を振り返る。
「百年前、ここはまだガインの町でした。そこからみなさんのたゆまぬ努力により、この領地は、どんどんと加速度を増しながら大きくなっていきました。その結果、この国で一番の大都市と呼ばれています。まあ、お貴族様たちはそれを認められないようで、未だにガインの町と言い張っていますがね」
私が少し冗談めかしてそう言うと、軽い笑いが巻き起こった。
「これは、今から四十年前のこの領地の百周年の時にも言わせてもらったのですが、私は今でも素晴らしいご縁に恵まれ続けています。ただ、出会ったほとんどの人が、私を置いて旅立ってしまいました。しかし、この地を愛するみなさんの心は、親から子へ、子から孫へ、そして子孫へと、何一つ変わることなく受け継がれています。この事実は、私にとって一番の自慢なのですよ?」
私はここで少し間を開け、周囲を見渡す。
みんな一様に誇らしげな表情をしており、この地を愛する気持ちが、十分以上に伝わってくる。
私はそれに頷きを返し、ここで話題を変えて、私の本心を初めて明かすことにする。
「そんなみなさんには大変申し訳ないのですが、私はいつかこの領地を去り、婚約者の元へと幸せを掴みに行きたいと考えています」
私のこの宣言は、領民たちにとっての爆弾発言になった模様で、大きなどよめきが起こってしまった。
ざわざわと場が落ち着かなくなったため、私は慌てて火消しに移る。
「みなさん、落ち着いてください。何も今すぐのことではありません。いつかみなさんが十分に力をつけ、私のささやかな助力がなくても自分たちだけで歩んでいけると、そう、判断した後の話です。おそらくは、五十年以上先の話です」
私の説明にみんな安堵の表情を見せ始め、やっと場が少し落ち着いてきた。
私はざわめきが少し収まるまで、しばらく間を開けて待ってから、その続きを語る。
「いつか、みなさんが、自分たちだけで貴族の横暴に対抗できるようになった、その時には、申し訳ありませんが、私は自分自身の幸せを、どうか優先させていただけませんか?」
私がそうお願いすると、領民の誰かが声を張り上げた。
「いつまでも初代様に甘えっぱなしでは、我らはあまりにも情けないではないか!! 今はまだ無理でも、いつか初代様が安心してご結婚いただけるように全力を尽くすことこそが! 我ら領民のせめてもの恩返しではないか!!」
その声は思ったよりも広く響き渡り、各所からそうだ、そうだと、同意の声が上がり始めた。
私の我儘を許して欲しいというお願いを、こうまで熱く応援してもらえる事実に、私の瞼の裏に、思わず熱いものが溜まり始める。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
私は感謝を述べることしかできなくなっていた。
しばらくしてから、進行役の人がそんな私を優しく宥めてくれて、それに支えられるようにしながら、私はそっと退場した。
それが開幕の合図となったようで、私にとっていつまでも忘れることのできなくなった、生誕二百周年祭が始まったのであった。