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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第24話 モーター

 寝ていても悪臭は軽減されないので、意を決して都市に観光に出る。

 この都市は魔道具の聖地と呼ばれているため、どんな魔道具があるのかを見て回るつもりだ。

 早速さっそくあちこちをぶらつき、道の端で開かれている露店を冷やかしながらお目当ての魔道具店を探す。

 地元の住民から場所を聞き出した魔道具店は、どこも高級店というのがすぐに分かるような店構みせがまえをしていた。

(森の田舎者の貧乏人の服装では、高額商品を扱う魔道具店に入店を断られませんかね?)

 そのような心配をしながらおそおそる店に入ってみたが、私の服装は以前に取引して手に入れていた青い布で作った一張羅いっちょうらだったためか、特に断られる事もなかった。

 これまでに見せてもらった魔道具は思っていた以上にどれも巨大なもので、ごてごてと不必要にしか見えない装飾が多すぎる。

(ドライヤーのような家電製品を作って、おおもうけしましょう)

 そのような甘い夢を見ていたが、そう簡単にかせげるようなうまい商売はないらしい。価格も小金貨数枚程度で、庶民では手に入らないというのも無理もない。

 そんな事を考えながら続けてふらりと入ってみたある魔道具店で、すみっこに置いてある魔道具に私の目は釘付けになった。

 そちらの方に歩いていくと、一つ手前に置いてあった別の魔道具も目にまる。そのかなり小型の魔道具の説明書きを見て、さらに固まる事になる。

 一番いちばんすみのやつが本命だが、まずはこちらだ。

「すいません、ちょっと使ってみていいですか?」

「ええ、どうぞ。手に取ってご覧になってみてください」

 店員さんに確認を取り、魔道具のボタンを押す。小さな火種が出た。

 前世のものよりもかなり大きくて重いが、これはあれだ。まぎれもなく、使い切りライターだ。

 無駄むだにしか見えない装飾類も排除されており、かなり無骨ぶこつな感じがするが、お値段も大銀貨八枚ぽっきりと、魔道具にしては破格の価格設定だろう。

(そうですよ、こういうのがいいのですよ。生活をちょっとだけ便利にする小道具こそが、家電というものです)

 私はこれを作った魔道具師の理念がとても気に入ってしまい、少し興奮しながら店員さんに質問してみた。

「この魔道具を作った魔道具師の名前は、何と言うのですか?」

「はい、こちらはルツ工房のルツ親方が作った作品になっております」

 さすがは高級店。店員さんがとても礼儀正しく、教育が行き届いているようだ。

 その後にその店員さんに説明してもらった内容によると、これはあると便利な魔道具なのだが、火種の魔法が使えるものは一定数いるため、コストパフォーマンスが悪すぎてあまり売れないのだそうだ。

 そして、私はいよいよ本命の魔道具に手を伸ばす。

 試作品と説明書きに書いてある小型の魔道具は、ディスプレイのためかスイッチが入りっぱなしで、上部にある円盤がくるくると回っていた。

 そう、これはモーターだ。

 たかがモーターと馬鹿ばかにするなかれ。これは様々なものに応用できる、アイデアの宝庫だ。

 回転運動は様々な機械の基本となる。単純に使っても、自動車の車輪や船のスクリューの動力源になるし、電気モーターをこれで回せば発電も可能になる。

 大きなもうけ話につながっていきそうな、夢の小道具だ。

「すいません、こちらを作ったのはどなたでしょうか?」

 なるべく冷静さをよそおいながら、先ほどの店員さんに聞いてみる。

「こちらもルツ親方の作った試作品になります」

 風の噂になるらしいのだが、これは借金を返せなくなったとある貴族が、借金のカタに差し出した書物から流出した、最新の魔法式を使った試作品なのだとか。

 質屋しちや無造作むぞうさに並んでいたその本を購入したのが、ルツさんらしい。

 回転する力を発生させる影響範囲がかなり狭いため、軸を回す程度の事しかできず、こうやって円盤をくるくる回す程度の事しかできないのだそうだ。

 今のところ実用性は皆無かいむだが、とても珍しいものであるため、こうして展示しているようだ。

 ちなみに、この魔法式を使った魔法は回転の魔法と呼ばれていて、新設された物理魔法にカテゴライズされているみたいだ。

(無属性魔法とは呼ばないみたいです、残念)

 一人、前世のラノベの知識でツッコミを入れる。

(これを作ったのもルツさんですか、素晴すばらしい。ぜひとも弟子入りして、魔道具作りの技術を学びたいです。そうだ! 私は魔道具職人になりましょう!)

 私は新しくできた人生の目標に向かって、店員さんに教えてもらったルツさんの工房へとあゆみを進める。

 最初の予定では、大都市で魔石を売って生計を立てるというものだった。だが、魔道具職人としてかせいだ金でも本は買えるだろう。

 少し遠回りになるが、生計を立てる方法さえ確立すれば、後は誤差だ。

 冒険の最初の都市でいきなり腰を落ち着けるという、英雄物語であれば許されざるストーリーだろうが、私は英雄に等なりたくないので気にしない。