先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第27話 そして魔道具職人へ
弟子入りしてから四年ほどがたった今、親方は、私の作った金属細工をじっと見分している。
「ふむ……。そろそろ頃合いか。今日から魔道具作りを教える。一人前の魔道具職人になれるように、頑張れよ」
「やりました!!」
待ちに待った瞬間である。思わず大声をあげて飛び上がってしまった私を、親方は、その強面に微笑みを浮かべて眺めていた。
ちなみに、親方の一人称は祭司長と同じであるため、とても親しみを覚える。
私の実の両親は教えてもらっていないが、いろいろと世話を焼いてもらった祭司長を私の母とするならば、親方が私の父にあたると尊敬している。
魔道具職人としての最初の教育は、今までの基本のおさらいだった。
魔道具は、魔石、魔法式を刻んだプレート、配線が基本構造になる。
そして、今の魔道具の基本になっている古代魔法文明の遺跡からの出土品には、三つの謎があるとされている。
一つ目は魔法式を刻んだプレート。
ここに刻まれた魔法文字は、人の手ではおよそ加工のできない微細加工になっている。そのため、何らかの魔道具を使って加工していると考えられているが、どのようなものを開発すればいいのか誰にも分からない。
二つ目は配線に使う金属。
現代では、魔法銀と呼ばれる金属からできた、電線のようなものを配線に使っている。
魔法銀と聞いてピンと来た人も多いのではないだろうか? ファンタジーと言えばあれ、ミスリルである。私もそのように認識している。
この魔法銀はとても魔力伝導率が良く、これ以外の配線では、まともな魔道具にならないそうだ。ただ、ごく少量しか産出されないため、配線に使う程度でも恐ろしく高額になっている。
(ミスリルと言えば剣ですよね? 魔法剣)
そのように考え、親方に質問してみた。
「親方、魔法銀で作った、魔法が使える剣はないのですか?」
ものすごい馬鹿を見るような目で説明された。
「確かに魔法銀で剣を作れば、魔法が発動できる剣も作れるかもしれんがな。恐ろしいほどの値段になるので、代金で国が傾くぞ?」
なんだか憐れむような視線になって、続けて教えてくれた。
「魔道具として使える剣が欲しければ、普通に鋼鉄で刃を作って魔法式を刻み、銀線で配線すればいいだけだ。わざわざ魔法銀で作ろうとする意味が分からん」
古代魔法文明のものに使われている配線は、魔法銀が使われていない事が判明しており、何らかの合金が使われていると考えられているが、製法が不明のようだ。
三つ目はインク。
インクと言うか、特殊な塗料である。
魔法式をプレートに刻み付けただけでは魔法が発動せず、刻んだ溝に特殊な塗料を流し込む事によって魔力が流れて魔法が発動する。
わざわざ刻むのは一定の量の塗料が必要になるためだ。理論上は巨大な紙に巨大な魔法文字を書けば魔道具ができるが、効率が悪すぎて誰もそれをやらない。
さらっと説明したが、この国にも紙がある。ただし、羊皮紙しかない模様だ。
手すき和紙の製造工程は大まかなものであれば記憶にあるが、再現するためには、少なくとも年単位の試行錯誤が必要になってくるだろう。
和紙を作るための各種道具の再現も、なかなかにハードルが高い。そう簡単に大儲けできるようなものは、残念ながら存在しないようだ。
話がそれた。塗料に戻そう。
塗料の魔力伝導率がいいほど小型化できる。古代魔法文明のプレートのような極小の魔法文字になると、仮に加工できたとしても、塗料の関係で魔道具としては成立しないそうだ。
魔力伝導率は、どうやって計測しているのだろうか? この世界には、電圧計のような便利グッズは存在していない。
わざと効率の悪い計測専用の魔法式のプレートを用意し、質の悪いクズ魔石を使い、連続稼働時間で計測する。連続稼働時間が長いほど、伝導率の良い塗料というわけだ。
この塗料は、基本的に細かく砕いた魔石とインクを混ぜたものになる。ただし、その配合比率は、各工房の秘伝になるらしい。
親方の研究はこの塗料の改良で、今、完全に行き詰ってしまっているようだ。
質の良い大型の魔石を使えば伝導率が上がる事は広く知られているが、含有魔力量やコストを考えると、ひどくコストパフォーマンスが悪い。
親方の研究結果としては、里の魔石を使えば小型化できるというものだった。
私が魔道具店で最初に見かけた火種の魔道具が比較的小型だったのは、このおかげだったらしい。
ただ、含有魔力量や価格を考えると、これもかなり効率が悪い。
私が渡した魔石を使った研究でも同じ事が言えるようで、もしあれを使って魔道具を開発すれば従来品よりもかなり小型化できるが、原料がばれたら命がないのでできないそうだ。