先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第35話 がすブランド
そろそろ、デンドウのこぎりの次に売れる新商品が欲しいなと思いながら、研究素材にしようと従来からある商品を眺めている。
今、私が見ているのは、一般的な火の魔道具だ。
「やっぱりこれ、火が大きいのが問題なのですよね……」
この魔道具は、竈の中に入れて使う。ある程度の火力調整がボタン一つでできる事から、定期的に売れる定番商品となっている。
しかし、大きな火を扱っているため、火力調整を行うのは少し危険を感じてしまう上に、いちいち竈の中に手が届くまで腰をかがめなくてはならず、前世を知っている私にすれば、かなり扱いにくいものになっている。
(せめて、火力調整のボタンだけでも外部に持ってくるようにしますか?)
そのように一瞬考えたが、すぐに没とした。
実現できないこともないのだが、本体から長く伸びる銀線を利用したら、コストがとんでもない事になってしまう。
しばらくウンウンと唸りながら考え続け、ある瞬間に前世のシステムキッチンを思い出した。
(いっその事、システムキッチンとしてまとめて開発してしまいますか?)
そのままこのアイデアを進めるべく、なにか問題点はないかと考えをまとめていく。
(いや、ダメですね。あれの形では、火の魔道具の火力は強すぎます。小さな火種の魔法の火力を上げても、それは同じ……)
ここまで考えを進めた時、なにか引っ掛かるものを感じていた。その違和感がかなり強かったため、思わず声に出して考え続ける。
「ん? 待ってください……。火種。そうか、火種です!」
この瞬間、閃きを得た。きっかけさえ掴めたら、後は簡単だった。
竈を使って調理するというのが、そもそもの思い込みだ。そこにさえこだわらなければ、最適な形はすぐに分かる。
そう、ガスコンロだ。
調理するための火も、何も火種一つに限定する必要はない。ガスコンロのように、小さな火種を円周上に並べればいい。
完全に同時に火種を発動させるのは、魔法式の原理上無理になってくるが、ループ文を使い、位置を調整しながら逐次処理で発動すればいい。そのぐらいのタイムラグ程度であれば、誤差の範囲と言い切れるだろう。
この方式のいいところは、従来の火の魔道具に比べて火と鍋の距離が近くなるため、小さな火種で良く、魔力消費の効率がかなり改善できる点だ。
つまり、ランニングコストが安く抑えられるようになる。
火力調整機能については、理想を言えばダイヤル式やスライダー式のような無段階調整になるが、現在の火の魔道具のようなボタン式で十分だろう。
この方式であれば、ボタンを同じ数にしておきさえすれば、火の魔道具からのコスト上昇は起きない。
火種の魔法の魔法式には、発生した火を維持する機能があるが、途中から火力を調整するようなものはない。だが、これについては、現在の火の魔道具の火力調整のプログラムコードが、ほぼ無修正の状態で応用できるだろう。
理想は持ち運びができるカセットコンロだろうが、ざっと頭の中で設計してみた限りでは、おそらく重たいガスコンロぐらいには収まるだろう。
「よし、親方に相談してきましょう!」
これらの説明を受けた親方は、次のように言いながらウンウンと頷いていた。
「お前の発明品にしては珍しく、最初から全くツッコミどころがないな」
そして、すぐに開発の許可を出してくれた。
(これって、褒められているのですかね?)
それから数か月の試作期間を経て発売された「がすこんろ」(私にネーミングセンスを期待してはいけない)は、竈よりはるかに省スペースなのに、火が小さくて安全で扱いやすいと絶賛された。
何より、火の魔道具と竈の機能が統合された点が、大好評となっていた。
その後、しばらくしてから発売された「がすおーぶん」と共にルツ工房の主力商品となり、これらの商品は「がすブランド」と呼ばれるようになっていった。
(ガスは全然関係がありませんけれどもね)
私は、一人、心の中でだけツッコミを入れていた。
ただ、これらの商品は良くできすぎていたため、だんだんと従来の火の魔道具を駆逐していく結果となり、定番商品を奪われる結果となった同業他社の恨みを集めるようになっていた。
また、他の工房の中には、がすこんろを分解してコピー商品を売りに出したところもあった。
しかし、親方の秘伝の粉なしで作る事になったため、かなり巨大なものになってしまい、がすこんろの売りである省スペース機能が再現できず、ほとんど売れなかったようだ。