先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第36話 親方の後継者
がすこんろの発売から数年の月日が流れた頃。
私は四十二歳になっていた。
里を初めて出たのが成人直後の三十歳の時だった。あれから十二年の年月は、本当にあっという間に過ぎ去っていった。
十二年前と比較すると親方もだいぶん老けて見えるようになっていたが、まだまだ元気に仕事をしていて、今なお魔道具作りに邁進し続けている。
急成長した我らがルツ工房は、もうすでに国一番の規模の工房と呼ばれているのに、親方は経営よりも魔道具の自作や研究を優先してしまう、根っからの技術者だった。
全く老けない私は周囲から少し不審がられる事もあったが、里のものでもこれくらいの年であれば、まだまだ若造と呼ばれてしまう年齢だ。
そのため、周囲には次のように説明していた。
「森アルク族は寿命が長いですからね」
また、この頃になると、工房の弟子たちの中にはチラホラと独立するものも現れていた。
しかし、親方の秘伝の塗料が手に入らなかったため、他の工房と同程度のものしか作れず、かなり苦戦しているようだ。
そんな事情で、弟子たちの多くは、一人前になっても我が工房の従業員として引き続き働いてくれている。
親方はそろそろ後継者を育てたいらしく、私を見かけると、しばしば次のように口にするようになっていた。
「ヒデオ、お前がわしの後を継いでくれ」
何度も頼まれたのだが、私はその期待に応えることができなかった。
私は年を取ることができない。そのため、私が親方になってしまうと、半永久的に地位を独占してしまう危険性がどうしても排除できない。
私がいわゆる「上位アルク」である事を知っている親方には、これ以上隠し事をしても無駄だと判断し、私がほぼ無限の寿命を持つことを打ち明けた。
そして、次のように説得を続けていた。
「いつまでたっても変化しないのは、停滞を呼んでしまいます。技術力や開発力で飯を食う、ルツ工房の理念に反してしまいますよね?」
そのかいもあって、やがて親方は高弟の一人を後継者に指名していた。
その彼はとても優秀な技術者だった。しかし、典型的な技術者の多くがそうであるように、彼もまた、金勘定については全くの無頓着だった。
経営に関して興味を示さなかったので、今は親方と二人でいろいろと教育している最中である。
がすブランドの商品は私の予想を超えて売れ続けており、同業者の恨みをこれ以上買わないために、私は新製品の開発を控えるようになっていた。