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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第43話 エルクとルース

 この護衛パーティーのリーダーは、事前の話し合いにより私がつとめている。これは、私が分隊長である事が大きく影響していた。

 その私の判断により、今の隊形は、左側に異なる傭兵団の三人をまとめて配置していて、右側の前から順番にルース、エルク、私になっている。

 なぜこのような隊列にしているかと言うと、魔物の襲撃しゅうげきへの対処のためだ。

 今歩いている街道は魔物の領域との境界線に近く、右手には自由国境地帯の森が広がっている。

 魔物の領域では魔物の襲撃が多くなるが、盗賊等はめったに出ない。人の領域では逆になる。

 この周辺地域で最近盗賊が出たという情報はなかったため、この混成パーティーの主力全員を、魔物の警戒のために右側に集めている。

 左側の三人もこの配置の意味を理解しているようなのだが、楽ができてちょうどいいと考えているらしく、だらだらと歩いている。

 失礼なようだが、彼らに連携れんけいはあまり期待していない。

 期待しているのは、万が一左側から盗賊の襲撃しゅうげきがあった場合、各個かっこに対応して時間をかせいでもらう事だ。その時間を利用して、エルクとルースの連携れんけいで敵を削ってもらう。

「なー、ヒデオ~。がすこんろの魔道具を開発したのって、お前って本当?」

 きびきびと歩くエルクが、歩調ほちょうと一致しないのんびりとした口調くちょうで雑談を開始した。

 このあたりは少し森から距離が離れており、仮に魔物が二~三匹出てきたとしても、ルースの魔法であれば余裕で全滅させられるため、警戒をゆるめているようだ。

「どうしたのです? 急にそんな事聞いて」

 私がそう聞き返すと、エルクは顔を右側に向け、森の様子ようすを確認しながら雑談を続けた。

「いや、酒場でウチの分隊のゲトがさ~、ついに手に入れたって自慢してたんだよ。そうしたら、お前らのところの隊長が作ったもんらしいぜ、って言ってたやつがいたんだよ。マジ?」

 私はうなずきを返しながらこの話を肯定する。

「本当ですよ」

 エルクは、顔を森に向けたまま、目線だけを少しこちらに向けて、質問を重ねてきた。

「じゃあ、傭兵になった時には、もう金持ちだったってのは?」

「否定できませんね」

「金持ってんのに、なんで傭兵?」

 ここまで黙って雑談を聞いていたルースが、ここで少し振り返り、会話を止めた。

「エルク、マナー違反」

 指でばってんを作る仕草しぐさが、なんだか妙にかわいらしい。

 傭兵に過去の詮索せんさくをするのは確かにマナー違反になるのだが、私は特に気にしていなかった。

 それよりも、この世界でもばってんを作る意味は同じなのだなと、のんびりとそんな事を考えていた。

 私は苦笑しながら返答する。

「別に隠しているわけではないので構いませんよ。そうですね……。冒険がしたかったから、というのが、一番の理由ですかね」

 それを聞いたエルクが、少し不思議そうな顔をしながらツッコミを入れてきた。

「冒険? なら、冒険者になればいいじゃん。金はあるみたいだから、発掘もできるだろうし」

 私はエルクの方に顔を向けながら、それに対する答えを述べる。

腕試うでだめしと旅がしたかったのですよ」

 エルクは前に向き直り、両手を頭の後ろで組みながら、納得のいかなさそうな声で指摘をする。

腕試うでだめしねぇ……。それって必要なのか?」

 ここで、ルースが顔だけを後ろに向け、雑談に加わる。

「うん、私も必要ないと思う。ヒデオ、強すぎだよ。こないだの一角いっかくぐまの時はすごかったよね」

 長閑のどかに広がる風景を楽しみながら、三人でのんびりと雑談を楽しむ。

 こないだの一角いっかくぐまというのは、ガルムの都市周辺でこの三人で狩りをした時、一角いっかくぐまに横から奇襲きしゅうされた場面での話だ。

 咄嗟とっさにルースをカバーしたエルクだったが、一角いっかくぐまとの間に無理やり体をねじ込んでいたため、体勢がくずれていた。

 ルースも尻もちをついており、危ないと思った私が、多重たじゅう水槍すいそうの魔法で仕留しとめたものだ。位置取りの関係で右側から回り込むようにして魔法を放ち、一角いっかくぐまの頭に命中させた場面だ。

「あれなぁ……。魔法ってあんなに曲がるものなんだな。ルース、ちなみにあれって、どのくらいすごいの?」

「ちょっと想像できないレベルだね。私は、ヒデオが王国最強の魔導師だって言われても納得なっとくするよ?」

 ルースのその返答には、少し自分を卑下ひげするような雰囲気ふんいきが含まれていた。

 それを察したエルクが、すかさずフォローを入れる。このあたりの呼吸は、さすがに幼馴染おさななじみコンビだなと思ってしまう。

「ルースだって、もの凄い魔導師じゃん。今は無理だとしても、いつかはできるんじゃない?」

 それに対し、ルースは頭を振りながら否定する。

「ダメ、無理だよ。同じ『多重たじゅう水槍すいそう』の魔法かどうかさえあやしいぐらいだもん。魔法式を見せて欲しいぐらいだよ。あれを目指しても、無駄むだでしょ」

 そのようにきっぱりと言い切ったルースの主張に、私は反論を加える。

「ルースぐらい優秀な魔導師なら、無駄むだって事はないと思いますよ。魔力制御の訓練を頑張がんばれば、もっと魔法が曲げられるようになるはずです。まだ若いのですから、練習あるのみですよ?」

「ヒデオにまだ若いって言われてもうれしくない」

 ルースが振り返り、後ろ向きに歩きながらジト目を向けてくる。

(うーん……。魔力制御の上級編でも教えますかね? ルースの制御力なら、上級編でもやれそうです)

 ジト目の表情もなんだかかわいらしくて、思わずドキッとしそうになる。

「では、こうしましょう。この仕事が無事に終わってガルムの都市に帰ったら、ご褒美ほうびとして、私の育ての親から教えてもらった魔力制御の訓練方法を伝授しますよ」

「わぁ、本当に? うそじゃない?」

 ルースが笑顔になって、確認を取る。

(ジト目の表情もかわいらしかったですが、やっぱり笑顔の方が素敵すてきですね)

 私はそんな感想をいだいていた。この時はまだ、この感情の意味するところを、全く理解していなかった。

「本当ですよ、約束します。私の自宅に招待しますから、そこで教えますね。エルクも一緒にどうですか? 私の手料理で良ければ、ご馳走ちそうしますよ?」

 エルクも楽しみにしてくれたようで、少しはずんだ声になりながら同意する。

「お、行く行く。そういや、ヒデオの家って行ったことなかったな」

「お金持ちの家って、私も見てみたいな」

 そう言った後、前に向き直ったルースは少し首をかしげながら疑問点を述べ始めた。

「あれ? 育ての親って、ヒデオは孤児こじなの? それなのに、お金持ちになったの?」

 ここでルースがハッとした顔になり、謝罪しゃざいしてくる。

「あ……、マナー違反。ごめんなさい」

 私はそれに苦笑を返し、返答する。

「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。孤児こじではなかったのですが、ちょっと特殊ない立ちでして。ただ、これ以上の詮索せんさくはダメですよ?」

 ルースとエルクの二人はうなずきを返し、同意を示していた。

 たわいもない会話を楽しみながら、のんびりと護衛の旅は続いていった。この後にひと騒動そうどうある事など、誰も予想しないままに。