先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第44話 ファイアーストーム
それからしばらく旅を続けると、地形の関係で街道が森のかなり近くを通っている場所にたどり着いた。
そうすると、右側の三人は自然と警戒を強化した。さすがはウチの分隊のホープだ。細かく指示されなくても、最適な行動が瞬時に行えている。
それに比べ、左側の三人はこれまでと同じようにだらだらと歩いている。まあ、そちら側はあまり期待していないので、適当でもいいだろう。
体感で三十分ほど警戒しながら移動していると、それらは静かに森から出てきた。
魔狼と呼ばれる、全長一メートルぐらいの魔物だ。群れで襲ってくる事で有名な、危険な魔物として知られている。
いくら魔物の領域との境界線とは言え、ここまで人里近くに姿を見せるのはかなり珍しいはずなのだが、数が多いように感じる。特に、良く見えない森の中にどれほどの数が潜んでいるのか、予想ができない。
(マズイですね。私とエルクはなんとかなったとしても、この距離だとルースが無事では済まなくなる可能性が高いです)
私は頭の中で素早く次の行動を考え、二人に指示を飛ばす。
「エルク! ルースのカバーをお願いします! 死ぬ気で止めてください!! ルースはもっとエルクに寄って!! 私は後ろにでかい範囲魔法をぶち込みますので、抜けたのを頼みます!」
私の指示の通りに瞬時に動きだした二人を視界の端に収めながら、大急ぎで頭の中で魔法式を構築していく。
『ファイアーストーム』
トリガーとなる魔法名を唱えると、直系五十メートルぐらいの巨大な火柱が、渦を巻きながら立ち上がっていく。
この場の全員が、唖然として固まる。魔狼ですら、立ち止まってしまっている。
この魔法は、風と火の複合魔法だ。『強風』の魔法を改造して渦を巻くような魔法を作り、さらに、それに上級範囲魔法として知られている『火柱』の魔法を加えた完全なオリジナル魔法だ。
火に風で火力アップを目指して最近開発してみた、前世のラノベでは良くあるパターンの半分ネタ魔法だったのだが、とっさの事だったため、覚えたてのこの魔法を使ってしまった。
広範囲に影響があるだろうなとは予想していたのだが、今回の依頼の日程の関係で、まだ実験していなかった新魔法だ。
あまりにも予想外の威力に、自分で作った魔法のはずなのに、私も絶句してしまっていた。
数秒で我に返り、新たな指示を出す。
「エルク! ルース! しっかりしてください!! 残敵を掃討!」
残っている魔狼の掃討をしばらくの間二人に任せ、私は延焼してしまっている森の消火を急ぐ。
『多重水球』
八つの大きな水の玉が生成され、それぞれ別々の場所に飛んで行って消化する。
『多重水槍』
こちらの方向に残っていた二匹の魔狼に魔法を放つ。それぞれが独立してホーミングしていき、どちらも眉間に命中。絶命させた。
エルクとルースのペアの連携もばっちりのようで、ほどなく全滅させる事ができた。
「うわぁ……。こりゃ消し炭だよ。魔石も取れないんじゃね?」
エルクがドン引きした様子で、黒焦げの死骸を剣先でつんつんしている。
(やってしまいました……。これは、恐怖の大魔王コースですね……)
私は祭司長の言いつけを破ってしまった事を理解してしまい、一人で落ち込んでいた。
そこに、ルースがキラキラした目で私を見ながら、早口でまくしたて始めた。
「ヒデオ凄い! 凄すぎ!! もう王国最強を名乗っちゃおうよ! 私が許可するから! 何なら、世界最強でも許しちゃう!!」
なんだか尊敬の眼差しのように見えるが、怖くないのだろうか?
「あの魔法、『ふぁいあーすとーむ』ってなんて意味になるの? 私にもできるようになると思う?」
恐れられていない様子に、私は胸を撫で下ろしていた。
「あれは私の故郷に伝わる、秘伝の切り札なのですよ。おそらく、このあたりだと、魔法式が手に入らないと思いますよ?」
大嘘をつく。
プログラミング言語技術を駆使した完全なオリジナル魔法です、だなんて、説明できるわけがない。仮に説明したとしても信じてもらえないだろう。
その後、若干怯えたように黙って護衛任務をする左側の三人を見て、私は再び落ち込んでしまった。
護衛対象の商人さんも私を見る目に怯えが見えたため、落ち込みに拍車がかかってしまった。
(失敗しました……)
そのように考えていたのだが、全く恐れる様子のないエルクとルースを見て、心の平穏を取り戻しながら護衛の旅を続けた。