先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第45話 私の自宅にて
それから一か月ほどが経過した頃。
昨日ガルムの都市に帰還していて、無事に護衛の仕事を終えていた。
そして、今、約束通りにエルクとルースを自宅に招いている。私の案内で家を見物して回った二人は、それぞれ感想を述べ始めた。
「ヒデオって、本当に金持ちだったんだな。思っていたよりは小さな家だったけど、全部の部屋に魔道具があるって、いったいどこのお貴族様だよ……」
「自分ちにお風呂があるなんてズルイ。今度着替えを持ってくるから入らせてよ」
私は危険な発言をしているルースを止める。
「独身男性の家に未婚女性がお風呂に入りに来たりしたら、いろいろとマズイでしょう。おかしな噂が広がってしまったらどうするのですか?」
私の懸念にも関わらず、ルースはなんでもない事のようにキョトンとして返答する。
「私は気にしないから入らせてよ」
「何と言われてもダメですよ」
他愛もない会話を弾ませながらとても楽しい時間を過ごし、手料理をふるまった後、お茶を飲みながらくつろいでいた。
そうすると、ルースが少し真面目な顔をこちらに向けてきて、この日の本題をお願いしてきた。
「ヒデオ、そろそろ魔力制御の訓練方法を教えてくれない?」
エルクは後ろを振り返りながら、席を外すと言ってくれる。
「じゃあ、俺はもうちょっとこの家を探検してくるよ」
エルクが部屋を出て探検に向かったので、椅子とテーブルを脇に寄せ、床にルースと向かい合って座る。
ちなみに、私の家は土足禁止になっている。玄関で部屋履き用のスリッパのような靴に履き替えてもらっている。
これから教える魔力制御の訓練は、椅子に座って行っても問題ないのだが、元日本人なせいなのか、床に胡坐をかいて座った方がより集中できるような気がして、私はいつもこうやっている。
「それほど難しいものではありません。まずはこうやって、球の形の水球を作ります。そして、その形を維持したまま動かします」
魔法のトリガーとなる『水球』を唱えると、私の顔の前に野球ボールぐらいの正確な球が浮かび上がる。それが、私を中心としてくるくると回り始める。
「この時のコツは、できるだけ小さくて正確な球の形を維持する事です。この時の魔法は何でもいいのですが、室内でやる時は、水が一番扱いやすいですね。『火球』とかですと、火事になったらいけませんので」
私は説明を終えると、この部屋に常備してあるバケツに向かって水球を動かし、そこで魔法を解除して水に戻した。
ルースにやってみるように掌を向けて促すと、真剣な表情になって水球の魔法を発動し、ぬぬぬっ、と、かわいらしい掛け声を出しながら、徐々に正確な球形を形作っていく。
ボーリングの玉よりも若干大きくなっているが、初めてやって、この大きさと正確さは素晴らしい。
「凄いですね。流石はルースです」
私が賞賛を送ると、ルースは眉間に皺を寄せながら、真剣な表情で魔法を維持したまま反論を口にする。
「ヒデオに言われても褒められている気がしないよ。ヒデオだったらどのくらいできるのか、見せてくれない?」
私はそれに一つ頷きを返して了承の意を示し、お手本を見せるべく、多重水球の魔法を発動させた。
「こんなところでしょうか」
拳大の正確な球や円柱、立方体や三角錐の形をした水球が、部屋の中をランダムに飛び跳ねている。
その様子を見たルースは、呆れ顔になって指摘した。
「これって、私には絶対に無理じゃない?」
私はそれに微笑を返し、大丈夫だと太鼓判を押す。
「ルースほど才能のある若者なら、いつかできるようになると思いますよ」
ルースは少し不思議そうな顔になり、こう口にした。
「ヒデオだって若いじゃん。時々、おじいちゃんみたいな事を言うよね」
私はそれに苦笑を返しながら誤魔化した。
(おじいちゃんですか。もう五十二歳ですから、あながち間違いだとは言えませんよ?)
想像していたような殺伐とした雰囲気もなく、私の傭兵としての日常は、このように順調に過ぎていった。