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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第49話 魔物の氾濫

 エルクとルースの結婚式から、二年ほどが経過した頃。

 二人は結婚直後に新居を購入していて、幸せな新婚生活を送っていた。ただ、子宝こだからめぐまれなかった事だけが心配だったようだ。

 そして、今。二人の家をたずねた私の前には、幸せの絶頂ぜっちょうのような表情をしている二人がいた。

 最近になって、ルースがようやく懐妊かいにんしたのだ。

 まだそれほど目立たないルースのお腹を、エルクが優しくでながら語り掛ける。

「男の子かな? 女の子かな? やっぱり、ルースの子供だから、魔法が得意なのかな? もし、男の子が生まれたら、俺、剣を教えるんだ」

「もー、気が早いわよ、エルク。それに、何度も同じ事を言わないでよ。まだ生まれてもいないんだから」

 二人はとても優しい表情をしながら、幸せですと全身で表現していて、それを見ていた私も幸せな気持ちになる。

 そんな親友たちとの会話を楽しんで、数日が経過した頃。

 私と傭兵団長の元に、ある不吉な知らせが届けられた。

「魔物の氾濫はんらん予兆よちょうだと?」

 団長がまゆせる。私も思わず顔をしかめてしまう。

 最近、近くの魔物の領域の森で、不穏ふおんな空気があるというのだ。

 魔物の様子が全体的にどこかおかしく、さらに、ごく浅い地域にはいないような魔物が、都市の周辺地域で確認されているらしい。

「団長、判断するにしても情報が不足しています。至急しきゅう、調査団を編成して派遣しましょう。私も出て、直接指揮をります。それから、この事を騎士団の詰所つめしょと、残りの傭兵団に連絡をお願いします」

 それから、あわただしく決められたのは、各傭兵団で精鋭せいえいからなる調査団を派遣する事と、魔物の氾濫はんらんに備えて医療物資等の備蓄びちくを始める事、森への立ち入りをしばらく禁止とする事等であった。

 翌日には編成された調査団を私が取りまとめ、魔物の領域の奥深くまでもぐる事になった。私たちの調査団は、担当地域である南東方向に向けて移動を開始した。

 それから三日後。

 私たち調査団の目の前に、一番、見たくなかった光景が広がっていた。

「副団長、こりゃあ、いろいろとマズイですぜ……」

 調査団の中でも一番のベテランである、エトが絶句しながらそう述べた。

 目の前には、雑多ざったな魔物たちが、あたり一帯に広がって移動を続けていた。

一旦いったん、安全な場所まで下がって距離を取りましょう。そこから木に登って、どの程度まで魔物が広がっているのか確認します」

 そうやって確認してみると、見える範囲一杯に魔物が広がっていた。

 その他の場所の何か所かで同じような調査をしてみたが、どこでも結果は同じだった。

 私たちは地図を広げ、現在の位置と魔物の進行方向、そしてガルムの都市の方角を確認した後、帰還準備を始めた。

 それからさらに二日後。

 予定を切り上げて調査から帰還した私たちは、最悪の結果を団長に報告する。

「ほぼ間違いなく、魔物の氾濫はんらんが起こります。到着予想時刻は二日後。南南東の方角です。記録にあるものと比較した結果、かなり大規模な魔物の氾濫はんらんが予想されます。大至急、領主様に連絡をお願いします」

 その報告をだまって聞いていた団長は、目をぎゅっとつむり、大きく息を吐き出した。

 その直後には、もう迷いのない、決然けつぜんとした顔になっていた。それから、各所に連絡すべく、いろいろと指示を出し続けていた。

 領主様にも事の重大さを理解していただけたようで、その日のうちに迎撃げいげき準備じゅんびを行う御触おふれが多数出された。