先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第52話 孫
領主になって、五年ほどが経過したある日。
六十四歳になっていた私は、孫のエストと同じ部屋にいる。孫と言っても実の孫ではなく、エルクとルースの第一子だ。
今、ルースのお腹には、待望の第二子が宿っている。
私の無限の寿命では、未来永劫、領主をしなければならないと気づいた時、エルクに頼んで養子縁組をしてもらい、二代目領主予定の跡取り息子となってもらっていた。
自由な傭兵稼業をやっているエルクは嫌がるかとも思ったのだが、元々傭兵の最終目標は騎士様になる事だったので、以下のように言ってくれて、案外あっさりと了承してくれた。
「お貴族様にしてくれるんなら、別にいいよ」
そうして、エルクは、エルク・ウル・ガインとなり、奥方となったルースと生まれた我が子と一緒にガイン村に引っ越していた。
ちなみに、エストの名前は、エルクの「エ」とルースの「ス」を使って、響きのいいように命名したと、エルクが以前に教えてくれていた。
貴族が平民と養子縁組する等、前代未聞の事らしいのだが、私自身が平民上がりの半端貴族なせいか、養子縁組を申請した時、驚かれはしたが特に問題なく手続きが終了した。
一般的な貴族であれば、華やかな社交パーティー等もあるらしいのだが、平民上がりの私にはそんな誘いが来る事もない。
そのため、貴族とは言っても他の貴族との付き合いのない、かなり特殊な貴族になっている。
エルク夫婦も最初は興味があったようなのだが、私の次のような説得に納得してくれていた。
「招待されてもいないのに無理に押しかけても、嫌な思いをするだけですよ?」
今では、特殊な貴族の立ち位置に、あまり疑問は感じていないようだ。
エルクとルースに、貴族らしい言葉遣いのために、丁寧語等を勉強しなくていいのか、と聞いた事がある。
その時、エルクはさも当然という表情をして、こう言っていた。
「丁寧語や敬語って、つまりはヒデオの普段の口調のことだろう? 何年の付き合いだと思っているんだよ。それを真似するぐらい簡単なもんさ」
ちなみに、現在、この館には数人の老婆のメイドさんが働いてくれている。
少人数で使うにしては少し広い館であるため、村の雇用を良くする意味も込めて、農作業が難しくなった老婆を募集して雇い入れていた。
今、私の膝の上にちょこんと座っているエストは四歳になったばかりで、私に昔話をねだっている。
「おじい様。また、おじい様のお里のお話をしてください」
この子はなぜか、私の幼少時代の話を聞くのが好きだ。特に私が過去にやらかした、失敗談が大好きだ。
男の子なのにルースによく似た女顔をしており、私は次のようにいつも考えていた。
(将来はさぞかし、女性を泣かせるイケメンになるのでしょうね)
このように、私は早くもジジバカをさらしまくっていた。