先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第54話 ひいおばあ様のペンダント
エルクが跡取りになってくれたので、無理を言って領主代行になってもらい、年に一度ほどのペースで長期休暇を取得していた。
「エルク。すいませんが、そろそろ領主代行をお願いできませんか?」
「ああ、もうそんな時期か。分かった、ヒデオに教えてもらった領主業務の実演をしておくから、おばあ様によろしく言っておいてくれ」
私はその長期休暇を里帰りに使っていた。
ちなみに、エルクの言っているおばあ様とは、祭司長の事だ。彼女を私の母親として説明しているので、息子になっているエルクから見ればおばあ様になる。
今、孫のエストのシャツの下には、里帰りした時に祭司長に作ってもらった魔石を使ったペンダントがかけられている。
魔道具師見習いの時の金属加工の技術を利用して手作りしたものだ。
(端くれといえども貴族になりましたから、問答無用で打ち首になるような事はないでしょう)
私はそのように判断していて、次のように教えてエストに与えていた。
「エストのひいおばあ様の魔力がこもったペンダントですよ」
そうすると、エストは文字通り飛び上がって喜んでくれた。
「ありがとうございます、おじい様! 大切にしますね!」
「でも、とても高価なものですから、あまり他人には見せないようにしてくださいね」
そのように言い含めると、エストはペンダントをじっくりと見た後、そっとシャツの下にしまい込んでくれた。
エストは里にとても興味を示していたためか、ひいおばあ様のペンダントを宝物としてとても大事に扱ってくれている。
ある日、エストはペンダントを手に取ってじっと見つめながら、次のように呟いていた。
「大きくなったら、私は森の隠れ里に行きたいです。そして、ひいおばあ様にこのペンダントのお礼を言いたいです」
それを聞いた私は、微笑みながら次のように応じていた。
「それは、ひいおばあ様も喜んでくれるでしょう。私が案内しますから、いつか行ってみましょうね」
この時から、里への旅行がエストの夢となったようだ。
私はそれを応援すべく、いろいろと手を貸す事になるのだが、それはもう少し先の話になる。
前回の里帰りの時、子供の頃に一緒に育った幼馴染たちは、少し老けてきているように見えてしまった。
考えてみれば、私ももう六十四歳になっているため、長命な森アルク族とはいえ、そろそろ老化が始まる頃になってしまっている。
私一人だけが時に取り残される事を見せつけられたように感じてしまって、少し感傷的になった。
里を飛び出してしまい、儀式を全くしていない私を、いつまでも祭司様と呼んでくれる姿に胸が熱くなる。
そんな思いのままに、私は次のように祭司長にお願いしていた。
「祭司長様、久しぶりに儀式の祝詞を教えていただけませんか?」
「なんじゃ? たまにはわしに甘えてしまいたくなったのか?」
祭司長はとてもいい笑顔になって、快く私の復習を手伝ってくれた。
久しぶりの祭司長の講義に、私も在りし日を思い出してしまい、親子で笑顔を並べながら仲良く勉強を続けた。