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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第56話 冷蔵庫開発

 私は、今、領主を引退したためにできた余暇よかを利用して、工房で何か売れる新商品が作れないかと頭をひねっている。

 もっと大量の開発資金を得るためだ。

 今のままでは、開発のスピードが遅すぎる。大量の開発資金さえあれば、いろいろとできる事が増える。

 例えば、開墾かいこんに必要な農具等を無料で提供し、当面の生活費を保証する事で広く移住希望者をつのるといった事が考えられる。

 そうやって領民を増やしていき、子供が増えたら本格的な学校も建設したい。

 公衆衛生のためにも、いずれは大衆たいしゅう浴場よくじょうも作りたい。幸い、この村の北側には割と大きな川が流れており、そこまでの道を整備して浴場よくじょうを作れば排水も簡単だろう。

 目指すところは全世帯下水道完備であるが、そのためには、測量のための高等数学を教える必要があるだろう。

 先は長いが、一歩一歩、少しずつやっていくしかない。

 まずは先立つものだ。そのための新商品開発。

 しばらく考えをめぐらせ、ずっと保留にしていた冷蔵庫の開発を目指す事にする。

 私のオリジナル魔法で直接氷を作る方法では、あまりにも魔力効率が悪すぎる上に冷やし続ける事が難しいため、却下とした。

 ちなみに、魔法での冷却れいきゃくの効率が悪い理由については、仮説を立てている。

 魔力とは、二つの意味があるのではないだろうか。

 水や風を生み出すエネルギーとしての魔力は、別次元から取り出しているものだと考えられる。そう考えないと、膨大ぼうだいなエネルギーが利用可能になっている事の説明ができない。

 そして、体内や魔石にふくまれている魔力とは、その別次元への穴を作るために利用しているのではないかと考えられる。

 つまり、体内や魔石の魔力を使って別次元への道を作り出し、そこから取り出したエネルギーが魔力の本質ではないかと考えている。

 その場合、冷却れいきゃくしようとすると、こちらの次元からあちらの次元へと逆方向にエネルギーを送り出しているのではないだろうか。そのために、通常の方法よりも大量の体内魔力が必要になってしまい、効率が悪化しているのだろう。

 閑話かんわ休題きゅうだい

 冷蔵庫の簡単な原理は、以下のようなものだ。

 まず、何らかの気体をコンプレッサーで一旦圧縮する。この時、できれば液体になるまで圧縮しておく。ちなみに、この気体は冷媒れいばいと呼ばれる。

 また、この圧縮時に熱が発生してしまうため、同じ原理のエアコンでは室外機を用意して廃熱する必要が生じるのだ。

 そして、この冷媒れいばいの圧力を下げて解放する時、気化熱や膨張熱ぼうちょうねつと呼ばれる原理で周囲から熱を吸収するようになり、周囲を冷やす事ができるようになるのだ。

 冷媒れいばいとして有名なフロンガスのような化学物質は入手不可能だが、それでも、風魔法を応用すれば圧縮するだけなら簡単にできるだろう。

 使い切りタイプのエアダスターを連続して使用した時、手に持ったスプレー缶が冷たくなった事を経験した人もいるのではないだろうか?

 あれが、膨張熱ぼうちょうねつの原理でものを冷やす一つの事例になっている。

(とりあえず、空気の膨張熱ぼうちょうねつでやってみますか)

 そんな軽い気持ちで始めた冷蔵庫開発であったが、これには、かなりの試行しこう錯誤さくご悪戦苦闘あくせんくとうが必要になった。

 ただ冷やすだけならそこまで苦労する事もなかったのだが、冷気を冷蔵庫内部に効率よく伝え、外部の熱をなるべく通さないように作るのが、恐ろしく大変だったのだ。

 大量の魔力を使って連続れんぞく稼働かどうさせれば、一応、冷蔵庫としては機能する。

 ただ、これをやろうとするとかなり大量の魔力を必要としてしまい、ご禁制の私の魔石がどうしても必要になってくる。

 貴族になった私が個人的に使うのであれば、これもアリなのかもしれないが、民生用として一般販売するには躊躇ちゅうちょしてしまうものだ。

 効率の良い断熱材として利用できる素材を探し、ゴムのように密閉みっぺいできる素材を探す。

 長い、地道な研究が続いた。

 特に、このゴムの代用品の開発は、困難こんなんきわめる事になる。

 様々な樹脂じゅしを中心に集め、配合比率を変更しながら調べ続ける。

 なんとか商品として形になった頃には、十四年の歳月が流れた後だったが、これは後の話とする。