先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第62話 面白い敬語
ガイン村を出発した私とエストは、その後、ガルムの都市で行商人のアレスさんの一行と合流し、今はシユス村に向けた街道を移動中だ。
馬車を操るアレスさんが、少し緊張した表情で語り始めた。
「ヒデオ様、エスト様。本当に馬車に乗らなくてもよろしいのですか?」
私はそれに微笑を返し、なるべく優しい雰囲気を出すように心がけながら返答する。
「もちろんです。私たちが馬車に乗ってしまうと、アレスさんが行商できなくなりますので」
「気を使っていただくのは恐縮なのですが、お貴族様が徒歩で私が馬車というのが、どうにも落ち着かないのですよ」
私は微笑みを苦笑に変えながら返答する。
「そこは慣れてもらうしかないですね。私は元々、この先の里の出身ですし、孫のエストもかなり鍛えていますから、徒歩でも全く問題ありません。ですよね? エスト」
エストは大きく頷き、はっきりとした口調で肯定する。
「はい。おじい様と一緒に、あこがれの森の隠れ里に行けるのです。徒歩の旅ぐらいでへばったりはしません」
護衛の傭兵さんの一人も、恐る恐るといった様子で雑談に加わる。
「本当の事を言うと、この仕事を受けた時、最初はうんざりしてたんスよ。お貴族様と旅をするなんてナーと」
私はその緊張も感じ取ったので、こちらにもなるべく優しい口調を心掛けながら返答する。
「我が家は貴族と言っても成り上がりですからね。ウチの領地では、平民の領民と一緒に学校に通っていたりもするので、私たちは、一般的な貴族とは少し違うでしょうね」
「ガイン村のお貴族様の話は噂に聞いてマシたが、噂通りの気さくな人で助かるデス」
傭兵さんの慣れない敬語が、かなり面白い事になっている。私は思わずクツクツと笑いながら、もっと楽にしていいと語り掛ける。
「私たちに無理に敬語を使う必要はありませんよ? ね? エスト」
エストも頷きを返しながら返答する。
「はい、おじい様。私も全然気にしませんので、普通に話してください」
そうすると、先ほどの傭兵さんが、真顔になって砕けた口調で返答してくれた。
「そりゃ助かる。実は舌を噛みそうだったんだよ」
行商人の一行が、笑いに包まれた瞬間だった。
それから三日ほど旅を続け、私たちは中継地点であるセイス村で旅の疲れを癒している。今は夕食も終わり、のんびりとしているところだ。
「しかし、『耳長の悪魔』の噂は聞いていたが、本当にスゲェ魔導師様なんだな」
エストが若干顔を顰めながら、雑談に加わる。
「おじい様をあまりそのあだ名で呼ばないで欲しいです。それと、おじい様が凄いのは当たり前です。私の自慢のおじい様なのですから」
先ほどの傭兵さんが、カラカラと笑いながら応じる。もうすっかり緊張しなくなっているようだ。
「そりゃすまん。しかし、どんなに離れた魔物でも目に入ったら魔法で瞬殺してしまうし、後ろから襲撃されても孫が対応するし、この孫もまた強い。こんなに楽な護衛依頼はねぇわ」
ここで、別の傭兵さんも会話に加わる。
「坊ちゃんたちなら、ウチの傭兵団に入ってもすぐに出世できますぜ。正直、お貴族様の実力をナメてましたわ」
村長宅で食堂として使われている一室で、それぞれにくつろぎながら雑談を楽しむ。
この三日の旅ですっかり打ち解けてくれたようで、私もその会話を楽しんでいた。そんな中、アレスさんも雑談に加わった。
「ヒデオ様たちといつも一緒なら、私も楽に行商ができるのですがね」
私はそちらに顔を向け、私の帰省状況についての情報を伝える。
「私は年に一回ぐらいのペースで里帰りしています。ですので、ガイン村まで連絡していただけたら、時期と時間の都合が合えば、ご一緒しますよ?」
そうすると、アレスさんは少し笑顔になりながら、この話を締めくくった。
「それは助かります。では、次の機会には連絡しますね」