先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第74話 最初の二つ名
仕事に少し余裕が生まれ、余暇のできた私は再び家電開発を始めている。
ガインの町は好景気で沸き返っており、税収もかなり増えていた。
(もう、私が無理に新しい政策を提案しなくても、この領地は十分にやっていけるはずです)
そのように判断を下していて、趣味として、前世の家電をこの世界で再現するための研究開発を続けている。
そして、今、ヒデオ工房で弟子たちと冷蔵庫の魔道具の改良案を相談している。
「完全に行き詰ってしまいましたね……」
私は溜め息を吐きながら、弟子たちに意見を求める。
「『断熱材』の素材も、『ゴム』の素材も、ちょっと私には、もう、思いつくものがありません。何かいいアイデアはありませんか?」
私の最初の弟子の一人であるワントが返答する。
「先代様。こだわりたいのは、技術者としてよく理解できやすがね。アッシはもう十分だと思いやす」
少し不思議な独特な言い回しで、ワントは自説を述べる。
「このレイゾウコの魔道具は、既にとても画期的でやす。ですから、このまま販売してしまいやしょう」
このレイゾウコの魔道具は、コンプレッサーの魔法式と、バルブを動かすためのモーターの魔法式、そして冷媒を内部で循環させる魔法式と、三種類の魔法式のプレートを連動させた、私の魔道具技術の粋を集めた作品である。
そのため、原価がとても高くなっており、魔道具として考えてもかなり高額な商品になってしまっていた。
また、内部に火を点けたロウソクを密閉する事で、冷媒として、二酸化炭素を採用している。
(確か、環境問題になったフロンガスの代替品として、二酸化炭素やアンモニアが使われていたはずです)
そう、思い出したからだ。
ちなみに、アンモニアは最初から研究対象になっていない。抽出するために一番簡単に手に入る材料を思い浮かべていただけたら、ご理解いただけると思う。
私は、アレを長々と研究するつもりはない。
このレイゾウコの魔道具は、大きさの割に内容量がかなり少なくなっており、製氷機能もないため、私としてはとても不満なできになっている。
「ワントの言う事も、ごもっともですね」
ただ、そのようにも思えてきた。
「そうですね……。では、こうしましょう」
私は顎に手を当てながら一つ頷き、このまま試験販売する事を決定する。
「この一号機を、取引のあるガルムの都市の魔道具店の中で一番大きなところに置いてもらって、試験販売してみましょう」
私はここで弟子たちの方向へ顔を向け、条件を付ける事も説明する。
「ただ、このレイゾウコの魔道具はとても高価ですから、最初は一台か二台だけ試験販売してみましょう。後は、その時のお客さんの反応を見てから、増産するか判断する事にします」
そんな私を見たワントは、少し呆れたような顔をしながら、太鼓判を押してくれる。
「そんなに心配しなくても、すぐに増産する事になると、アッシは思いやすぜ?」
それからほどなくして試験販売されたレイゾウコの魔道具は、驚愕をもって受け入れられた。いつでも冷えた飲み物が飲めると、購入した貴族の顧客からかなりの高評価を得ていた。
その噂を聞きつけた他の貴族たちから、次のような注文を受ける事になった。
「今すぐにでもレイゾウコを作れ」
矢のような催促を受けた我らがヒデオ工房は、急遽、大増産を決定した。