先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第79話 複雑な乙女心
この頃になると、既にメイは二十歳になっていた。
そのため、周囲の家族たちからは、早く婚約者を紹介して結婚するようにと催促されるようになっていた。
そんなある日の夜。
メイは良く冷えたビールとワインの入った陶器の瓶を両手に持ち、私の自室を訪ねてきた。
「おじい様、少し相談したい事があるので、一緒に飲みませんか?」
私は微笑みながら頷き、了承の意を伝える。
「ええ、喜んで。たまには、孫と一緒にお酒を飲むのもいいものですから」
しばらくは、二人とも無言でチビリ、チビリとグラスを傾けていたが、メイはポツポツと、その複雑な心境を打ち明け始めてくれた。
「おじい様、私もそろそろ、ゴランと結婚しなければならないと思っているのです。でも、どうしても決心がつかないのです」
何か大事な話があるのだろうなと思っていた私は、決して続きを急がせる事のないように、ただ黙って、メイの話に耳を傾ける。
「自分でも愚かだとは思うのです。でも、結婚してしまうと、お兄様を完全に諦めてしまうように感じられてしまって、どうしても、踏み込めないのです」
私は微笑みを続けながら、できるだけ優しい雰囲気になるように心がけ、メイの打ち明け話に返答する。
「乙女心は複雑ですね。私は既に八十五年生きていますが、未だに理解できません。おそらく、後千年生きたとしても理解できないでしょうね」
そして、私はゆっくりとグラスを揺らしながら、メイにある提案をする。
「では、メイ。こうしませんか? 私からも、それとなくエルクとルースに、あまり結婚を急がせないように話をしておきますので、もうしばらくは時間が稼げると思います。あまり長い時間は無理でしょうが、その間に、気持ちの整理をしてはどうですか?」
私の提案が進むにつれて、メイの顔から落ち込んだ様子が消えていき、やがて微笑みながら謝意を伝えてきた。
「ありがとうございます、おじい様。その時間を使って、じっくりと、自分がどうしたいのかを考えてみたいと思います」
私はウンウンと頷き、メイの意思を尊重する事を説明する。
「それがいいと私も思います。人生について悩めるのは、若者の特権ですからね。メイの気持ちが定まったら、その時は、私にもその結果を教えてくださいね」
やや下がり気味だった肩も上がり、少し悩みが軽くなった様子で、メイは続きを語り始めた。
「やっぱり、思い切って、おじい様に相談してみて良かったですわ」
私は笑顔になりながら返答する。
「私も嬉しいですよ? 愛する孫と一緒に、こうしてのんびりとお酒を楽しめるのですから。ですので、相談したい事があれば、いつでも私の元へと来てください。秘密は厳守しますよ?」
私が少し冗談めかしてそう言うと、メイも微笑んでくれた。
それから、しばらく二人でお酒とたわいのない雑談を楽しみ、夜が更けていった。