先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第80話 孫と再び里帰り
メイとの密談から、一年ほどが経過していた頃。
私は、エストとローズさんと共に里帰りしていた。今回も行商人の一行との旅であったのだが、アレスさんは既に引退していて、息子さんのアルトさんとの旅だった。
「ひいおばあ様、エストです。また来てしまいました」
「おう、エストか! よくぞ参ったのじゃ! 遠路はるばる、ご苦労じゃった……の……じゃ?」
祭司長は喜色満面で出てくると、エストの隣にいるローズさんを見て、最後が疑問形になりながら挨拶をした。
そのあまりにもデジャブなシーンに私は吹き出しそうになり、両手で口を覆って少し涙目になる。
エストも可笑しかったのか、少し頬をピクピクさせているが、吹き出すことまではせずに、冷静にローズさんを紹介し始めた。
「ひいおばあ様、紹介します。こちらが私の妻のローズです」
紹介を受けたローズさんは丁寧に頭を下げ、挨拶を始めた。
「曾祖母様、お初にお目にかかります。エスト様の妻のローズと申します。よろしくお願いいたします」
祭司長はとても嬉しそうに一つ頷いて、新しい家族を迎え入れる。
「そうか、もうエストもそのような年なのじゃな。やはり、ヒム族は成長するのが早いのう。ローズよ、わしがおぬしのひいおばあちゃんじゃ。これから末永く、よろしくな」
そんな二人の様子を嬉しそうに目を細めて眺めていたエストが、続けて自分の子供たちの存在も紹介する。
「実は、私には既に二人の子供もいるのです。ひいおばあ様の玄孫にあたります。長女がネリアで、今、五歳です。長男がシゲルで、四歳なのですよ?」
祭司長は少し驚いた顔になって語る。
「そうか、もう子供までおるのか。ついこの間に訪ねてきてくれたと思うておったのじゃが、月日の流れるのは早いのう。しかし、わしの玄孫か。一目で良いので、見てみたいものじゃな」
それを聞いたエストも少し渋い表情になり、子供たちを紹介したがる。
「私もできれば、二人を紹介したいのです。ですが、二人ともまだ小さいので、ここまでの街道を旅できないのです」
渋い顔を並べて会話している二人を見ていた私は、ここで一つ、思いついたある提案をしてみる事にした。
「では、祭司長様、こうしてみませんか? この里で私がしばらく祭司長様の代行をしますので、その間に、ガインの町まで旅行するのはどうでしょう?」
祭司長は腕組みをして目を瞑り、しばらく考えてから結論を述べる。
「魅力的な提案ではあるのじゃが、わしは生まれてから数百年、この里を一度も出た事がないからのう。何日もかけてヒム族の国に行くのは、ちと難しいな」
そんな私たち親子の会話を、エストは顎に手をあてて考えながら眺めていてのだが、ここで何か思いついたようで、私とは別の提案を始めた。
「では、ひいおばあ様、こうしませんか? 私に作っていただいたように、ひいおばあ様に二人のための魔石を作ってもらいます。そして、おじい様が私にしてくださったように、私とおじい様で、この里の魅力を今から教えていけば、成人したら自分で訪ねてきてくれるようになるかもしれません」
それを聞いた祭司長は途端に笑顔になり、握り拳を作って張り切って魔石作りを始める事を宣言した。
「そうか! ならば、早速魔石を作るのじゃ! 最も光輝く魔石を作ってみせようぞ」
その話を聞いていたローズさんは少し心配するような顔になり、反対意見を述べる。
「でも、あなた。子供たちだけでは、危険ではありませんか?」
エストは自分の妻の方へ振り返り、優しい顔になりながら説得を始めた。
「いや、ローズ。あなたもこうして、この里まで無事に来られたではないですか。おじい様に護衛してもらえれば、安全にこの里まで旅行できると思いませんか?」
それもそうですねとローズさんは頷き、納得してくれたようだ。
話が纏まったようなので、ここでさらに、私は賛成意見を加える。
「ネリアとシゲルが成人する頃には、エストも三代目領主になっているでしょうから、許可を出すのも簡単そうですね」
そして、家族四人で祭司長の小屋にお邪魔した途端に、祭司長は嬉々として魔石に魔力を込め始めた。
頑張りすぎて四つほど粉にしてしまっていたが、私が以前に教えていた、限界ギリギリまで魔力を込める方法を覚えていたようで、その後は二つの光輝く魔石を完成させていた。