先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第81話 くーらーの運搬
明けて翌日。
私とエストが同じ小屋に泊っていて、祭司長とローズさんが同じ小屋に泊っていた。今は祭司長の小屋に家族四人で集合していて、祭司長とローズさんが仲良く朝食を作っている。
そんな中、ローズさんががすこんろを見ながら質問を口にした。
「なんだか、この家に魔道具がたくさんあるのが不思議なのですが、他の家もこのような感じなのでしょうか?」
それを聞いたエストが、クスクスと笑いながら否定する。
「そんなはずはありませんよ。これは、おじい様がご自分の母上に、せっせと貢物を献上した結果です」
そのあまりにもな表現に、私も苦笑いしながら同意する。
「貢物って、もう少しマシな表現はなかったのですか?」
そんな私にエストは微笑みを返し、続けてローズさんに顔を向けて同意を求める。
「私は、おじい様の故郷や母上に対する愛情が、少し暴走しているように感じる事があるのです。ローズ、あなたもそう思いませんか?」
ローズさんはそのまま頷きそうになっていたが、その時に私と目が合ってしまい、慌てて否定してくれる。
「私はお母様思いの、素敵な息子さんだと思いますよ」
そんな私たちの様子を見たエストは、少し笑みを深くし、祭司長に新しい提案を始めた。
「ところで、ひいおばあ様。おじい様がまた新しい魔道具を作ったのですが、欲しくはありませんか?」
「何じゃと。それは、いったいどのようなものじゃ?」
新しい文明の利器を欲しがる祭司長を見て、私はしみじみと次のように考えてしまう。
(祭司長様もずいぶんと、私に毒されてしまいましたね)
そんな私の様子に気づいた風もなく、エストは新作魔道具の説明を始める。
「レイゾウコというのですが、いつでも冷えたお酒が飲めるようになりますよ?」
祭司長は料理の手を止めて上を向き、少し考えてから返答する。
「ううむ。酒は祝いの時の儀式の一つじゃからのう。そこまでして飲みたいとは思わぬな」
「では、くーらーの魔道具はいかがです? 冷たい風が吹きつけるので、夏場は快適ですよ?」
それを聞いた祭司長はエストの方に向き直り、少し食いつき気味に返答する。手に持ったままの包丁が少し怖い。
「そ、そのような便利なものが……。それは、ぜひとも、欲しいものじゃな」
私は祭司長の希望を叶えるべく、頭の中で素早く問題点を洗い出す。しかし、どう考えても無理そうだった。
「祭司長様、あれはとても重たいものなので、馬車はともかくとして、荷車で運ぶのはおそらく不可能だと思います」
「そうか……。運べぬのであれば、いたしかたないのう」
しょんぼりとしてしまっている祭司長を見て、私はなんだか罪悪感が湧き上がってきてしまったので、必死に頭を回転させて解決策がないかと考えを巡らせる。
「そうですね……。では、こうしましょう。この小屋に使う程度であれば、あそこまでの出力は必要ありませんから、私が改造して小型化します。そうすれば、運べるかもしれません」
「おお、そうか! 祭司はいい子じゃな」
「祭司長様、私もとっくに成人しているのですから、いつまでも子供扱いは止めて欲しいです」
祭司長にいい子と言われたのが、なぜか無性に嫌だった。私は、この時、その理由に全く気が付いていなかった。
そんな私たち親子の会話を聞いていたエストは、ウンウンと頷いていて、賛意を示してくれる。
「それはいい考えだと思います。おじい様、私も半分お金を出すので、ぜひとも小型のくーらーを作って運搬しましょう」
そんなエストを見ていると、私は新たな問題点に気づいてしまい、その指摘を始める。
「ただ、もう一つ問題があります」
私は粗末な床を見ながら説明を加える。
「この床にくーらーを置いてしまうと、おそらく床が抜けてしまいます」
思わずといった様子で家族四人が視線を下に向け、少し笑いあってから、協力しあって床下の増強工事を行う事にした。
朝食後に全員で床板の一部を取り払い、私と祭司長の親子二人で土魔法を駆使して土をできるだけ固め、その上に全員で平らな石を敷き詰めてから、床板を元に戻していった。
そうやって、楽しい時間は、瞬く間に過ぎ去っていった。
これは、それから一年後の話である。
私は、約束通りに開発を進め、小型化に成功したくーらーを行商人のアルトさんに運搬してもらった。
馬車で運ぶのは問題なかったのだが、荷車を使って人力で引いていくのはかなり大変だった。
私も後ろから押して手伝っていたのだが、無理な依頼をしてしまったと反省し、ガインの町に帰った後に、アルトさんに追加報酬を支払った。
一年前に行った床下の増強工事もちゃんとできていたようで、特に問題なく、くーらーの設置ができた。
早速スイッチを入れて、冷風を顔に受け始めた祭司長だった。
「う? うおおおおおおおお?」
そんな、奇妙な雄叫びのようなものを上げて、とても喜んでくれていた。
その様子を見ながら、同時にいろいろと目に入って来るこの部屋の魔道具を見て、私はしみじみと感じていた。
(やはり、この小屋だけ、家電製品で溢れてしまいましたね)