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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第82話 里を少し便利に

 家族四人で床下の増強工事をした後、祭司長とエストとローズさんは、仲良く狩りに出かけていた。

 私は少し別の用事があるからと同行を断り、今は里の子供たちを集めて、ある事を教えている。

 順番に子供たちに教えていると、祭司長が様子ようすを見に来た。

「祭司よ、これは何を教えておるのじゃ? 伝統にはない、新しい魔法に見えるのじゃが」

 祭司長は眉間みけんしわせていて、かなり不機嫌ふきげん様子ようすに見える。私はさも当然という態度たいどを見せる事を心掛けながら、説明を始めた。

「祭司長様、これは火種の魔法です。外では生活魔法と呼ばれている、ごく基本的な魔法になります」

「それでは、この里の伝統が」

 私は祭司長の前にてのひらかかげ、その主張をさえぎって説得をこころみる。

「祭司長様も、がすこんろの魔道具を使っていますよね? あれは便利だとは思いませんか?」

 私のあからさまな話題わだい転換てんかんに、祭司長は少し怪訝けげんな表情を見せていたが、どうやら話は聞いてくれるらしい。

「あれは確かに便利じゃな」

「私もがすこんろを、里のみんなに使って欲しいとは思っていません。ただ、火種の魔法が使えるようになると、かまどに火をけるのが少しだけ便利になります。里の伝統からは少し外れるかもしれませんが、これくらいであれば、見逃みのがしてもらえませんか?」

 祭司長は腕組うでぐみをして、うなり声をあげながら考え込んでいる。

「ううむ……」

 私はこのすきに、少し譲歩じょうほする姿勢しせいを見せる事で説得を続け、たたみかける。

「それに、私は、火魔法の攻撃魔法などは教えるつもりがありません。そこまで伝統をくずしたくはないですし、何より、森の中で大きな火を扱うのは危険ですから。火種の魔法だけ、黙認もくにんしてもらえませんか?」

 祭司長は目を閉じ、しばらく黙考もっこうを続けている。私もだまってそれを見つめていると、やがて祭司長は目を開け、結論を語ってくれる。

「まあ、この程度ていどであれば、わしは見なかった事にするぞ」

 私は笑顔えがおになり、祭司長にお礼を述べる。

「ありがとうございます。祭司長様」

 超保守的なこの里とはいえ、やはり子供は好奇心こうきしん旺盛おうせいなようで、他にも何か便利な魔法はないかとせがまれたため、祭司長が見ていない間ならとことわりを入れてから、他の初級魔法も教える事にする。

 そこで、私は、便利な防御魔法としてひかりだての魔法を教え、次に光の魔道具に使われている魔法である光球こうきゅうの魔法も教えた。

 子供たちはとてもよろこんでくれたので、つい調子ちょうしに乗ってしまい、「うぉーたーかったー」の魔法も教えてみたのだが、子供の魔力では連発れんぱつができなかったようだ。

(この子たちが成長したあかつきには、ウォーターカッターの魔法も連発れんぱつできるようになるでしょう。そうなれば、もうおのはレアアイテムではなくなるはずです)

 私は、里の生活が少しだけ便利になった事に満足し、今回の里帰りの予定を終えた。