先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第83話 メイの横顔
私の名前はメイ。メイ・ウル・ガインよ。おじい様の興した貴族家、ガイン家の娘として生まれたの。
私は自他ともに認める、重度のブラコンとして有名になってしまっているわ。
もちろん、それは本当の事なのだけれども、私の初恋の相手は別にいるの。おじい様よ。
私は物心がついたときには、もうおじい様が大好きだった。
柔らかい物腰で、いつも優しく微笑んでいて、私が甘えに行くととても喜んでくれたわ。本当に愛されていると今でも感じているの。
そして、何より、物知りなおじい様が私の自慢だったの。
私はいろんなところで吹聴して回っていたわ。私のおじい様は何でも知っているの、だから、質問してみてちょうだいってね。
私がこう言うと、おじい様はいつも少し困った顔になって、こう言っていたわね。
「さすがに、何でもは知りませんよ?」
でも、その後に質問された内容で、おじい様が答えられなかったものがなかったのも事実なのよね。
もちろん、私もおじい様にいろいろと質問したわ。そうすると、幼かった私にも分かりやすくなるように、とてもかみ砕いていつも丁寧に教えてくれたの。
そんなおじい様が大好きだった私は、ある時、この館でメイドとして働いてくれている婆やのカルラに力説していたの。
「私、大きくなったらおじい様のお嫁さんになりたいの!」
そうすると、婆やはにっこりと笑って、思いもよらなかった事を教えてくれたの。
「あらあら。でも、お嬢様とヒデオ様は孫と祖父の関係ではありますが、血は繋がっていませんからね。お嬢様の頑張り次第では、実現するかもしれませんよ?」
私はとても驚いたわ。そして、血が繋がっていないという事実は、私にとって、とても喜ばしい事に思えたの。
それから、私はこの決意を誰かに聞いて欲しくなってしまって、ちょうど応接室で休憩していたお父様とお母様に宣言したの。
「私、大きくなったら、絶対におじい様のお嫁さんになるの!!」
そんな私の決意表明を聞いた両親は、なんだか困ったような様子になって顔を見合わせていたわ。
どうしたのだろうと首を傾げていると、お母様がとても悲しそうな顔になって、こう言ったの。
「やっぱり、あなたも私の娘なのね。でも、それは止めておきなさい」
それから教えてくれた内容は、私にとって、とても衝撃的なものだったわ。
若い頃、お母様とおじい様は、お互いに思いあっていたのですって。
でも、おじい様は年を取る事ができないので、お母様を不幸にしてしまうからと言って、自ら身を引いていたみたいなの。
それからもいろいろと教えてくれたのだけれども、まだ幼かった私には、ほとんど理解できなかったわ。
でも、最後に優しく言い含められて、この内容だけは、なぜだかとても良く理解できたの。
「いい? メイ。もし、あなたがその目標をおじい様に言ってしまうと、おじい様はとても苦しんでしまうの。そして、もしかしたら、自分がメイに悪い影響を与えてしまっていると考えて、この家を出て行ってしまうかもしれないの」
それから、私の目をじっと見つめて、こう言ったの。
「これから先もおじい様と一緒に暮らしたかったら、その思いは、絶対に伝えてはだめよ?」
こうして、私の初恋は、あっという間に失恋へと変わってしまったの。
もちろん、私は泣き出したわ。ギャン泣きよ。そして、泣き疲れて寝てしまうまで、ずっとお母様にしがみついていたわね。
でも、おじい様と会えなくなるのだけは絶対に嫌だったので、言いつけを守って、この思いだけは伝えなかったわ。
そして、この頃だったわね。私が魔道具を良く触っていたのは。
それを見たおじい様は、私が魔道具に興味を持っていると思ってしまったようで、いろいろと魔道具について教えてくれるようになったわ。
でも、残念ながら、私は魔道具に興味があったわけじゃないの。
おじい様が工房長として魔道具を開発していると知ったから、おじい様の作った魔道具を私も使ってみたくなって、いろいろと眺めていただけなの。
そんな私がお兄様に心惹かれてしまったのも、しょうがない事だったと思うの。
だって、そうでしょう?
お兄様は、おじい様が作った学校を優秀な成績で卒業すると、おじい様にお願いしてもっと高度な内容を勉強していたわ。
物知りなおじい様の知識を、誰よりも一番多く継承しているはずなのよ。そして、おじい様の影響を強く受けていたの。
とても物静かで、物腰の柔らかい、ものすごく頭のいい男の子になっていったの。
私には、小さなおじい様に見えてしまったわ。そう認識してしまうと、恋せずにはいられなかったの。
小さな頃は、誰も問題にしなかったのよ。
お兄様にべったりとまとわりついても、優しいお兄様本人はもちろん、周りのみんなもニコニコとしていて、微笑ましいものだと思ってくれていたわ。
でも、大きくなるにつれて、だんだんと眉を顰められるようになっていったの。
そこで、私は考えたの。どうやったら、おじい様のような異性に、家族以外で出会えるのかってね。
そうすると、勉強していたお兄様の姿が頭に浮かんだの。これだわ、と思ったわね。
おじい様に厳しく教育してもらえれば、おじい様のような物知りな男性に成長するに違いないと思えたのよ。
それからの私は、私のために必死に勉強してくれそうな男性を探したわ。
一番条件に合ったのが、ゴランだったの。
実際、おじい様の教育を僅か二年で修了して見せた時には、とても見直したわ。もしかしたら、この人なら、愛せるのかもしれないと思えたの。
でもね。今になって悩んでしまっているの。
みんなはお兄様への未練があるからだと思っているのだけれども、本当は違うの。
私が結婚してしまうと、この家を出て独立しないといけなくなるわ。そうすると、今までのように気軽におじい様に甘えられなくなるのよ。
私にとっては、それが一番、寂しいのよ。
でも、このままでは、みんなを困らせてしまう。
そこで、最近はちょくちょくと、相談があるからとおじい様の部屋を訪ねて、お酒を飲みながらいろいろと聞いてみたわ。
その中で、何か結婚を後押しするような知恵はないですかって、聞いてみたの。
そうすると、おじい様はこう答えてくれたわ。
「私の故郷では、自分が好きになった人と結婚するよりも、自分を好きになってくれた人と結婚する方が、より幸せになれると言われていましたね」
おじい様によると、自分を好きになってくれた人と一緒になると、ずっと大事にしてもらえるので、夫婦円満で幸せに暮らしていけるのですって。
言われてみると、なるほどねと思えてしまったわ。
それに、子供好きのおじい様の事だから、私に子供ができれば、私たちの家へと頻繁に通ってくれるようになるのは間違いないわね。
そう考えてみたら、そろそろ、ゴランと結婚してみるのも悪くないわね。