先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第87話 高等学校設立準備
ソウジキの魔道具の販売開始から、二週間(十二日)ぐらいが過ぎ去った頃。
高等学校の先生予定の人たちの教育が、ようやく修了していた。
最初は普通に勉強していた先生予定の生徒たちであったが、どんどんと高度になっていく内容に困惑を隠しきれなくなり、次のように質問するものも現れていた。
「先代様、このような、お貴族様しか知らないような内容を平民の私たちに教えてしまって、本当によろしいのですか?」
私は優しく微笑みながら返答する。
「もちろん、構いませんよ。知っていると思いますが、我がガイン家は他の貴族たちが嫌いです。ですので、ぜひともこのまま勉強を頑張って、傲慢な貴族たちの高く伸びた鼻をへし折ってあげてくださいね」
私がそう説明すると、生徒の一人が青ざめた顔になって告げる。
「そんな事をしてしまうと、私たちが打ち首になってしまいます!」
(しまった。これは、前世の表現でしたね)
私はそのように気づき、安心させるべく、すぐに説明を開始する。
「誤解させるような発言ですいません。これは、私の故郷での比喩表現なのです」
青ざめていた生徒が、キョトンとした顔になって問い直してくる。
「比喩ですか?」
私は大きく頷き、続けて詳細な内容の説明を始める。
「ええ。人は自慢げにする時、顎を少し持ち上げて、鼻を上げるような仕草をする事があるでしょう?」
「そうですね」
「ですので、得意がっている人の心を挫く事を、私の故郷ではそう表現するのです」
そのような場面もありながらも、全員で勉強に励んだ結果、当初の予定通り、中学校卒業程度の数学の内容を教える事に成功した。
ただ、二次方程式の解の公式等で使われる、平方根の一覧表は用意できなかった。
平方根を求める計算方法を、私が覚えていなかったためである。平方根を筆算で求める方法も前世では発見されているのだが、とても複雑な計算方法になるため、詳細を覚えていなかったのだ。
しかし、ルート2やルート3、そして、ルート5は、有名な語呂合わせを覚えていたため、用意する事ができた。ひとよひとよに……、というやつである。
そして、現在、先生たちとこの世界の言葉に合わせた語呂合わせを考えている。
そうやって、高等学校で教えるカリキュラム等を検討した結果、この学校は五年制となる事が決定した。
初等学校で教えている内容が、前世であれば小学校二~三年のレベルになるので、そこから中学校三年のレベルまで教える事と、数学のみを教える事を考慮し、少し余裕を見たカリキュラムを組む事になった。
また、教科書の編集作業も、相談しながら同時進行で進めていた。この教科書も当初の予定通り、インサツ技術で量産する事が決まっている。
教科書は、基本的に学校から貸し出す形をとるが、希望者には相応の金銭で販売する事も併せて決定している。
ただ、準備作業に奔走していたため、参考書の編集作業は後日の課題として残している。
先生たちの人数が決定したため、同時に開ける教室数や各種経費も計算できるようになり、そこから徴収される授業料も求められた。
しばらくの間は私が校長として就任し、この新しい学校の運営や授業内容等を監督する事も決まった。
このように、慌ただしく行われた高等学校の設立準備であるが、先生たちの協力と奮闘のおかげで、一年ほどで開校に漕ぎつける事ができた。