先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第121話 平民の首都
貴族連合軍との戦いが終わり、ガインの都市へと凱旋した私たちは、住民たちからの拍手喝采を浴びながら駐屯地へと帰還していた。
私は投降者に宿屋を無料開放すると約束していた。
だが、貴族連合軍に所属していた傭兵の全員が投降していたため、とてもではないが宿屋の数が足りなくなっていた。
そこで、急遽、全ての学校を臨時休校とし、それらの施設も無料開放していたのだが、それでも数が足りず、住民から希望者を募り、補助金を出して民家に宿泊させてもらっていた。
それからしばらくは戦勝記念の宴が執り行われたのだが、一日や二日では、その熱狂は収まらなかった。
そして、五日ほどが経過してようやく戦勝気分が抜けてきた頃、エストと私と官僚たちは戦争の後処理に頭を抱えることになる。
投降者たちに今後の身の振り方を聞き取り調査してみると、ほぼ全員が移住を希望していたためである。
「どうせ故郷に帰っても、お貴族様から報復されるのがオチなんで」
そう口にして、この都市での生活を希望していた。
しかし、この人数をガイン警備隊で雇用するのは、どう考えても無理なのは明白であった。だからと言って他の傭兵団に移籍しようにも、やはり、人数が多すぎた。
そこで、受刑者用の職業訓練所を一時閉鎖し、そこの講師や学校の先生たち、さらには職人を急遽募集して、各地に臨時の職業訓練所を開設した。
学校施設だけではとても場所が足りなかったため、空き倉庫なども広く活用し、交代制で授業を執り行うことでなんとか回していた。
私は宿屋の約束が守れなかったことを悔い、また、希望とは違う職種へと職業を斡旋することを申し訳なく思い、移住希望者たちの宿泊施設を一つ一つ回り、謝罪をしていた。
しかし、私は誰からも非難されなかった。誰もが人数が多すぎることを承知していたためである。
それよりもむしろ、「ガイン家の初代様」が自分たちに頭を下げて回っていることを高く評価してくれて、恐縮されてしまうことも多かった。
そのようにして、ガインの都市の新たな住人となった人々は、日々、新しい職業への訓練に邁進してくれている。
そんな彼らは、他のどの土地とも異なり、平民が自由を謳歌できるこの地の様子にとても驚いていた。
噂としては聞いていたようなのだが、この都市では官僚ですらも平民であり、お貴族様は、領主とその家族しかいない事実に衝撃を受けたらしい。
また、この頃になると、この都市の領民たちの収入も徐々に増加していて、可処分所得が増えたことにより、読書などの娯楽にお金を使えるようになっていた。
それに加えてチョサクケンなどの考え方も少しずつ広まってきたようで、権利を保護された作家や音楽家といった芸術家も活躍の場を広げており、後に平民文化と呼ばれる新しい文化が花開き始めていた。
それらの様子を見た移住者の中の誰かが、この都市のことを「ガイン自由都市」と呼び始め、その新たな名称が瞬く間に国中の平民たちに広まっていった。
そのため、王国の平民たちの間では、以下のようなことが広く言われるようになっていった。
「王都はお貴族様の首都。ガイン自由都市は平民の首都」
これらの言葉は平民たちの心を鷲掴みにしたようで、誰が最初に口にしたかで、しばらく言い争いが行われるようになっていた。