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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第122話 命名、カズシゲ

 貴族連合軍との戦いが終結しゅうけつして、一年ほどが経過したころ

 クレアさんが産気さんけづいていた。

 出産の瞬間しゅんかんを待っていたシゲルは、表情こそ普通ふつうのものだったのだが、足がせわしなく貧乏びんぼうゆすりし続けているのを、家族たちはツッコミもせずにながめていた。

 初産ういざんにしてはとても安産あんざんだったらしく、しばらくして、無事に男の子が生まれた。クレアさんゆずりの銀髪で、茶色いひとみの、泣き声が元気な活発かっぱつそうな赤ちゃんだ。

 私が部屋に入れてもらった時には、満面まんめん笑顔えがおで我が子をくシゲルが、頑張がんばった自分の妻をこれでもかとたたえていた。

 まだ結婚けっこんしたくないとぼやいていた、かつてのシゲルと同一人物とは思えないほどの愛妻家あいさいかぶりに、やはり、子供の存在は大きいのだなと実感じっかんした。

 シゲルはいていた我が子を私にわたしてくれ、かせてくれると、満面まんめん笑顔えがおかべたまま、恐怖きょうふのお願いを開始してしまう。

「私はひいおじい様に付けてもらった、この名前がとても気に入っているのですよ? ですから、ぜひともこの子にも、ひいおじい様から名前をさずけてください。私やひいおじい様のような、雰囲気ふんいきのある名前をお願いしますね」

 今度はシゲルからの無茶むちゃぶりに私は頭をかかえたくなったのだが、いている赤ちゃんを投げ出すわけにもいかず、ビキリと音がしそうなほど硬直こうちょくしてしまっていた。

 それから三日ほどなやみになやみ、さんざん考えた挙句あげく、「シゲル」のような名前ということで、「カズシゲ」と命名めいめいした。

 どこかのプロ野球の往年おうねんの名選手の息子むすこを思い出したわけではない。だんじてないのだ。

 私はこのとき、みずからのネーミングセンスのなさに、完全に絶望ぜつぼうしていた。

 私が絶望ぜつぼうを感じてしまった名前だったのだが、その名前をつたえたシゲルが大喜おおよろこびしたので、それだけが、せめてものすくいだった。

 その命名の現場を一緒いっしょに見ていたエストは、名付けたばかりのカズシゲにやさしくかたけ始めた。

「やはり、おじい様の名付けは最高ですね。カズシゲ、あなたも森の隠れ里の末裔まつえいとして、いつかご先祖様の祭司長様をたずねてくれると、おじいちゃんはうれしいですよ」

 エストはその後シゲルに顔を向け、私をさらに絶望ぜつぼうのどんぞこき落とす発言を始めてしまう。

「そして、シゲル。私は、これから直系ちょっけい跡取あとと息子むすこには、代々、おじい様に名前を付けて欲しいと思うのですが、いかがです?」

「それは妙案みょうあんですね!!」

 後になって冷静れいせいになってから考えてみると、私はこのとき、すぐにでも固辞こじすべきだったのだ。私には無理むりだと。

 しかし、この絶望感ぜつぼうかんが代々続くのかと思ってしまった瞬間しゅんかんに、私はまたしても硬直こうちょくしてしまい、そのチャンスを永遠えいえんのがしてしまった。

 こうして、私は代を重ねるごとに自分に絶望ぜつぼうすることをかえしながら、和風の名前を考え続けることになってしまったのであった。