先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第123話 シゲルの横顔
俺の名前はシゲル。シゲル・ウル・ガインだ。
俺の名前は一風変わっているだろう? だが、俺にとってこの名前は、一番の自慢になっているんだ。
俺のお父様のエストは、俺の名前をひいおじい様にお願いしたのだそうだ。森の隠れ里の雰囲気のする、ひいおじい様のような名前をお願いしますとね。
これは、しばらく後になってから分かったことらしいのだけれども、俺やひいおじい様のような名前は、森の隠れ里の中でもかなり独特なものみたいだ。
お父様は、古風な名前なのかと思っていたそうだ。
だが、その後になってひいひいおばあ様から聞かされたという真実は、とても衝撃的なものだった。
ひいおじい様はこの世界に生まれてくる前に天上の神々の住処で暮らしていて、そこから遣わされた神の御使い様だったのだ。
このことは、後を継ぐ可能性のある直系の子孫とその兄弟姉妹にだけ教えられる、我が家の秘伝になっている。
後に分家となった家では、その子孫に伝えることも禁じられているほど、かなり厳格に言い含められている。
それならば、跡取り息子にだけ教えればいいのではと思うかもしれないけれども、その子に万が一のことがあったときの失伝に備え、その兄弟姉妹にも教えるのだそうだ。
ひいおじい様は自分の名前を自分で決めたと言っていた。
なんでも、それがアルク族の先祖返りとして生まれたものの伝統なのだとか。
ということはだよ?
ひいおじい様の名前、ヒデオは、天上の世界の住人の名前だということになる。
もしかすると、この世界に生まれてくる前にはそういう名前だったのかもしれない。
そして、ひいおじい様と同じ雰囲気のする俺の名前、シゲルも、その神々の世界の住人の名前だということになる。
だから、俺にとって、この名前は一番の自慢になっているのさ。
そんな俺も嫁さんをもらう年になり、そして、先日には最愛の息子も生まれてきてくれた。
この子も神々の世界の住人の末裔として、生涯の自慢となる名前を与えてもらいたい。そう思って、ひいおじい様に名付けをお願いしたんだ。
そして、三日後。素晴らしい名前を付けてもらえた。
今日からこの子の名前はカズシゲ。カズシゲ・ウル・ガインだ。
何も説明されなくても分かる。
俺の名前、シゲルの子供ということが分かりやすく、その上、ひいおじい様と同じ雰囲気のする名前。
どんなに控えめに言ったとしても、最高じゃないか!!
そう思って感動に打ち震えていると、お父様がものすごくいい提案をしてくれた。
「私は、これから直系の跡取り息子には、代々、おじいさまに名前を付けて欲しいと思うのですが、いかがです?」
俺は速攻で同意したさ。だって、そうだろう?
今後、俺の子孫たちには、神の御使いの末裔であることを一生誇れる名前がずっと与えられ続けるのだから。
ただ、そうなってくると、せめてカズシゲの次の代の子供の名前ぐらいは聞いてから天へと向かいたいなと思えてきた。
これは、孫の顔をみるまでは、絶対に死ぬわけにはいかなくなったな。
これからは、健康にも気を使って、できるだけ長生きしよう。