先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第124話 街壁と入街税
それからしばらくの時が流れ去り、カズシゲが二歳になった頃。
大量の移住者の住居問題や職業問題に、かなり目途が立ってきていた。そのため、領地の財政的にも少し余裕が出てきていた。
そんな情勢の中、高級官僚たちを集めて行われた領地運営会議の場で、レオンさんが新しい提案を行っていた。
「前の戦争では平野部で敵を迎え撃ち、大勝利を収めましたが、いつもうまくいくと仮定するのは非常に危険です。ですので、私はこの都市に、新たに街壁を建設することを提案します」
会議に参加している官僚の一人も同意する。
「私も賛成します。まるっきりの無防備というのは、さすがにかなり問題があると思いますので」
ここで、財務官僚の一人として参加していたゴランさんが、現実的な意見を述べる。
「街壁の建設はみなさん賛成だと思いますが、その財源はどうしますか? この都市の拡張速度を考えれば、かなり広い範囲を囲う必要がでてくると考えられますが……」
みんなの視線がレオンさんに集まると、そこも事前に考えていたようで、スラスラと自説を述べ始めた。
「そこは、入街税を新たに導入しようかと考えています。元々、このガイン自由都市の税率はかなり低めに設定されています。ですから、この平民の首都を守るための壁を建設するためだと丁寧に説明すれば、住民からも大きな反対意見は出ないと考えられます」
領主のエストも頷いており、賛成のようだ。そして、私に意見を求めてきた。
「私もいい提案だと思います。おじい様はどう思われますか?」
私はそれに一つ頷きを返し、自説を述べる。
「街壁の建設は賛成です。そのための増税もいいでしょう。ですが、入街税の導入は反対ですね」
エストは少し意外だったようで、その理由について確認を取る。
「それはなぜですか?」
私は軽く全員を見渡してから、その意味を語る。
「この都市で好景気が続いている理由の一つは、入街税が存在せず、自由にモノを流通させられるからです。ですので、入街税を導入してしまうと物流が滞りますので、かえって全体の税収が落ち込みかねません」
その説明を聞いたエストも納得してくれたようで、一つ頷いてから続きを促す。
「さすがは、この領地の知恵袋ですね。では、おじい様はどのように増税すればいいと考えていますか?」
「そんなに複雑なことはしなくてもいいと思います。各種の税率を少しだけ上げて、少しずつかき集めるようにすれば、経済にそれほどの打撃を与えずに予算が確保できると思います。ただ、レオンさんが言っていたように、この都市を守るためだという説明は、事前にきちんとしておいた方がいいでしょうね」
私のこの案が最終的に採用されることになり、周知期間を設けて領民に広く説明した後に、来年度からの増税が決定された。
ただ、建設終了まで完全な無防備というのも不安だという意見もあったため、予算を少し上積みして、壁の建設予定地に簡易な防壁を建設することも併せて決定された。