先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第125話 農業の保護
街壁の建設のための増税が決定されてから、しばらくが経過した頃。
私は、次の領地の運営会議の場で、新たな提案を行っていた。
「私は、農業に補助金を出して作物の増産を行い、それを食料の備蓄に回すことを議題として提案します」
それを聞いたエストが、真っ先に反対意見を述べ始める。
「しかし、それでは、おじい様が常々主張しておられる競争原理に反する事態になりはしませんか?」
「もちろん、反しますよ」
「では、分かった上でやらねばならない理由があるということですね?」
私は一つ頷きを返し、肯定した上でその理由を語る。
「この都市は急激に大きくなりすぎました。そのため、食料の増産が間に合わず、食料自給率は年々下がる一方です」
ここで、官僚の一人が手を上げ、反対意見を述べる。
「ですが、他ならぬ初代様の提案で、入街税の導入を廃案にしたのです。今まで通り、他の領地から輸入すればいいのではありませんか?」
「平時であれば、それで構わないと思います。ですが、考えてみてください。貴族たちと戦争になったとき、この領地の食料を他の領地からの輸入に頼っていれば、ガイン自由都市は兵糧攻めにあう危険性があります」
私はゆっくりと周囲を見渡す。
その危険性に初めて気づいたものも多かったようで、みんな真剣に考えてくれ始めたようだ。
「食料備蓄だけを拡大するのでは、問題があるのでしょうか?」
私は大きく頷いて肯定し、その理由を語る。
「ある程度の短期決戦が望めるのであれば、それでもいいでしょう。ですが、最初からそれしか想定していなければ、いざ長期戦になったときに戦えません。せめて、他の領地を占領下に加え、食料が確保できるようになるまでの長期戦ができるだけの備えをしておかなくてはなりません」
ここで、レオンさんが現実的な意見を述べ始める。
「ですが、初代様。いきなり食料自給率を百パーセントにするのは、不可能ではありませんか?」
「もちろん、その通りです。ですが、なにも百パーセントにする必要はありません。他の領地の穀倉地帯なり、備蓄食料なりが奪取できるまでの継戦能力が確保できれば、それでいいのです」
ここで、これまでの会議の行方を聞いていた領主のエストが口を開き、決定を下す。
「必要性は理解しました。ですが、今すぐには予算が足りません。ですので、来年度の増税に合わせて、補助金と食料備蓄の予算を捻出することとします」
こうして、きたるべき戦いへの備えが、一歩ずつではあるが着実に行われていった。