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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第127話 カントの横顔

 俺の名前はカント。

 栄光えいこうある平民のための軍隊、ガイン自由都市軍の初代将軍なんて言われる地位にけさせてもらっている。

 そんな俺は、ほんの四年ほど前まではしがない傭兵の一人でしかなかった。

 一応、とある傭兵団で部隊長の地位にいていたのだが、それでもその時の俺はもうすでに三十八歳だった。

 若いころに夢見ていたお貴族様になる野望やぼうは、ほとんどあきらめてしまっていた時期だ。

 だって、そうだろう?

 お貴族様にしてもらうためには、最低でも団長の地位が必要になってくる。そこからさらに武勲ぶくんを立て続けて、ようやく任命にんめいしてもらえる。

 だが、四年前にもう中年になっていた俺は、それを達成たっせいするよりも早く引退いんたいしなければならない年になっているだろうと気づいていた。

 そんな時に、あるうわさを聞きつけた。

 あの平民たちの味方みかた、ガイン家の領地であるガインの都市が、他のお貴族様たちを敵に回して戦争を始めるというのだ。

 平民にってくれる特異とくいな貴族であるガイン家の方々は、他のお貴族様たちから見れば、かなり目障めざわりな存在だったのだろうということは容易よういに想像がつくさ。

 なにせ、他の貴族家の領地を捨ててガインの都市を目指す平民が後をたないからな。

 お貴族様たちは何か無理むり難題なんだいをガインの都市へとけたようで、それをきっぱりとっぱねたガイン家と戦争になるのだそうだ。

 俺だって平民だ。ガイン家の味方みかたをしたいに決まっている。

 それに、これからも先の見えない傭兵ようへい稼業かぎょうを続けるのであれば、最後くらいはガインの都市で同じ平民たちのために戦ってみるのも面白おもしろいだろう。

 そんなふうに考えた俺は、それまで所属しょぞくしていた傭兵団を飛び出した。まあ、よめさんもいない身の上だったので、そこらは身軽みがるだったのさ。

 そして、そのままガインの都市へと向かい、腕利うでききの傭兵を募集ぼしゅうしているというガイン警備隊の門をたたいた。

 他にもかなり大勢おおぜいの傭兵がめかけていたので、採用さいようされるのか少し不安ふあんだったのだが、りていないのは指揮官しきかんクラスの人材じんざいだったようで、俺はすんなりと採用さいようされた。

 ここで、俺の部隊長としてのキャリアが、生まれて初めて役に立つことになったってわけさ。

 入隊にゅうたいしたばかりの俺は、同じく新規しんき入隊にゅうたいした傭兵たちで構成こうせいされた部隊の隊長をまかされることになった。

 これまでにかさねてきた傭兵としての努力どりょくみとめられたように感じられて、俺はとにかく頑張がんばったさ。

 ひまさえあれば部下たち一人一人に話しかけ、士気しき鼓舞こぶして回った。

 まあ、その後に始まった戦争そのものでは、全く出番がなかったけどな。なにせ、戦う前に相手がそうくずれを起こしてしまったのだから。

 だが、俺の頑張がんばりは、ちゃんと見てくれていた人がいた。

 なんと、ガイン警備隊の総指揮そうしきをとっておられたガイン家の初代様が、俺の仕事ぶりをとても高く評価ひょうかしてくれたのだ。

 俺は天にものぼるほどうれしかったさ。

 だから、それからもガイン警備隊の仕事をとにかく頑張がんばり続けた。

 それから四年が経過し、俺が四十二歳になったころ

 ガイン警備隊はガイン自由都市軍として名前を変え、新組織しんそしきとして生まれ変わった。

 その総大将そうだいしょう将軍しょうぐんに、なんと俺が任命にんめいされることになった。

 あのガイン家の初代様が、強く推薦すいせんしてくださったのだと聞いている。仕事の熱心さ、そして、部下の掌握術しょうあくじゅつ素晴すばらしいと評価ひょうかしてくださったのだとか。

 俺はもう感謝かんしゃしすぎてしまって、初代様をはじめとするガイン家の方々に絶対の忠誠ちゅうせいちかったさ。

 俺のそんな決意けついちたちかいを聞いた初代様は、微笑ほほえみながらこう言われた。

「我々も、一応、貴族ですからね。ですから、あなたが忠誠ちゅうせいちかう必要はありませんよ? そのちゅう誠心せいしんは、この地にむ領民のみなさんへと向けてください」

 どこまでも俺たち平民にってくれるこのお方たちだからこそ、俺は忠誠ちゅうせいちかいたい。

 俺はそう思ったのだが、その言葉は飲みんで、そうしますと同意しておいた。

 だが、いざという時には、このを投げててでもガイン家の方々を守り通して見せると、俺は心の中だけで決意けついかためたのさ。

 そして、今、ガイン自由都市軍の設立せつりつ式典しきてんおこなわれている。

 俺の順番の一つ前で壇上だんじょうに立って演説えんぜつを始めた初代様は、最初はしずかにかたけていた。

 だが、その短い演説えんぜつが進むにつれてその熱がつたわって行き、誰一人として身じろぎもせず、もちろん、無駄むだぐちたたかず咳払せきばらいすら飲みんで、みんなじっと聞き入っている。

 そうだ。俺たちは最強の軍隊にならなくてはならない。

 そのためにどんな過酷かこく訓練くんれんが待ち受けていようとも、それはのぞむところだ。

 俺たちが、俺たちこそが、この地にむ全ての平民たちの守護者しゅごしゃになるのだ。

 そんな決意けついかためていると、初代様の演説えんぜつが終わりをげた。

 最後にかたった内容は、次のようなものだった。

「いつか、きたるべき日のために」

 この言葉は、最後に小さくくわえられた。

 だが、シンとしずまり返っていた会場には、おそろしくよくひびわたっていた。

 そして、俺の演説えんぜつの順番になった。

 俺は用意していた原稿げんこうのワシをそっと丸めて投げて、俺自身の言葉でかたけ始めた。

 多くをかたる必要はない。

 このむねの熱さを、ただ、そのまま言葉にするだけでいい。この場にいるガイン自由都市軍の兵士であれば、その熱い思いは同じはずなのだから。

 そして、俺は演説えんぜつめくくりとして、みぎこぶしき上げながら絶叫ぜっきょうした。

 きたるべき日のために!! オオオオォォォォォ!!

 そんな俺の鼓舞こぶに対し、一泊いっぱくおくれて全ての兵士たちがみぎこぶしき上げ、雄叫おたけびを上げてこたえてくれた。

「「「オオオオォォォォォ!!」」」

 ああ……。

 そうだ。俺たち栄光えいこうのガイン自由都市軍の伝説でんせつは、今この時より始まったのだ。