先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第129話 四代目領主シゲル
リズの誕生から、一年ほどが経過した頃。
このとき既に五十五歳になっていたエストは、領主を引退することを決意した。
「本当は、もう少し早く引退したかったのですよ?」
エストはそう言って微笑みながら、その心の内を語ってくれた。
それによると、まだ孫たちが小さかったため、せめて、カズシゲがもう少し手がかからなくなるまではと頑張っていたらしい。
そんな父親に、シゲルが労いの言葉をかける。
「お父様、今まで本当にお疲れさまでした。今後は私が領主として、妻のクレアと共に頑張りますので、ゆっくりと休んでください」
そんな息子に対し、エストは優しく家訓を語り始めた。
「シゲル、私があなたのおじい様から領主を引き継ぐときに伝えられた言葉を、そのまま伝えます。ガイン家の新たな家訓として、代々、伝えていってくださいね」
そのように断りを入れてから、かつてエルクがエストに伝えたのと同じ言葉を、今度はシゲルに伝える。
「いいですか、シゲル。ふんぞり返っているだけの他の貴族たちの言葉は聞かなくてもいいですが、税金を納めてくれる領民たちの声には、よく耳を傾けなさい」
シゲルは真剣な眼差しでその言葉を受け取り、ある質問を投げかけた。
「そのとき、お父様はなんと答えたのですか?」
「私にもおじい様の教えは、ちゃんと受け継がれていますよと答えました。そして、困ったときには物知りのおじい様に相談しますので、心配ありませんよとも言いましたね」
シゲルは一つ頷いて、領主としての抱負を語り始めた。
「私もそう思います。これからは私が領主として、この平民の首都をさらに発展させていきたいと思います。ひいおじい様、いろいろと相談することになると思いますが、助けてもらえますか?」
私はそれに大きく頷きを返し、返答する。
「もちろんです。私も全力でサポートしますので、ガズシゲが後を継ぐ頃には、もっと大きな都市にして見せましょう」
私は続けて、エストに労いの言葉をかける。
「エスト、お疲れ様でした。今後はのんびりと、隠居生活を楽しんでください」
それに対し、エストは少しだけ困り顔になりながら私に相談を始めた。
「ですが、おじい様。正直なところ、これからの時間の潰し方をどうしようかと私は悩んでいるのです」
私はそれに微笑みを返し、何も心配はいらないと太鼓判を押す。
「孫たちと遊んで暮らせばいいのではないでしょうか。とても楽しいですよ? エストが小さい頃の私がそうでしたから」
私がそう言うと、エストはクスクスと笑いながらそれに応じた。
「私も、もう、引退するほどの年なのですよ? ですが、おじい様にとっては、それでもまだまだ小さい孫ですか?」
私もクスクスと笑いながら、その心境を語る。
「ええ、もちろんです。たとえエストが百歳になったとしても、私にとってはかわいい孫ですからね」
そうやって、家族で朗らかに微笑みあいながら、シゲルは領主へと就任した。