先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第130話 えあがん
シゲルが新領主に就任してから、一年ほどが経過した頃。
ガイン自由都市軍の兵士たちはカント将軍による苛烈な訓練に耐え抜き、かなり精強な軍団に変貌を遂げていた。
私は、そんな彼らをさらに強くできないかと、思案を続けるようになっていた。
そうやってしばらく考え続けた結果、思い切って銃を開発することを決意した。
私は無意識のうちに、前世の知識を武器に転用することを避けていたように思う。しかし、あちらから仕掛けてきた以上、遠慮も手加減も一切無用だろう。
最初に手を付けたのは、石弾という、石の礫を発射する魔法を用いた魔道具開発である。
そのまま使えるとは最初から考えていなかったが、作ってみると、やはり、弾速が遅すぎて使い物にならなかった。
(やはり、魔道具形式の魔力制御力では、このあたりが限界ですか……)
そのように考えた私は、魔力制御力に頼らない方式を考え始めた。
(一番いいのは、火薬を開発してしまって、鉛玉を発射する本物の銃を開発することです。しかし、それだと技術的に超えなくてはならないハードルが高すぎますね)
しばらく悩んだが、前世のおもちゃの銃を思い出したとき、突破口が見えた。
それは、以下のような手順で弾丸を発射する方法だ。
第一段階として、風魔法を発動させ、銃身後部に圧縮空気を生成する。
第二段階として、圧縮空気の前方に石弾の魔法で弾丸を形成する。この時、弾丸は前世の銃弾の形にしておく。研究は必要だろうが、この程度であれば、魔道具形式の魔力制御力でも問題なく作れると判断している。
第三段階として、圧縮空気を解放し、弾丸を発射する。
つまりは強力なエアガンである。
この方式であれば構造も単純化できるため、工作難易度はそれほど高くないと思われる。
しかし、命中精度を上げるために、銃身内部にライフリングと呼ばれる渦巻き状の溝を作るところだけはこだわることにした。
こうすることによって弾丸が進行方向に対して垂直に高速回転するようになり、直進性が増すのである。
これは、ジャイロ効果と呼ばれる原理である。
ゆっくり回っているコマが不安定なのに対し、高速回転しているコマが安定して直立するのと同じ原理になる。
勘違いしている人が多いのだが、回転させるのは弾道を安定させるためであって、威力を高めるためではない。
もしかするとそちら方向の意味もあるのかもしれないが、いずれにせよ、副次的なものだろう。
「ただ、この新兵器の技術は、絶対に他の貴族たちに渡すわけにはいきませんね。ここは、私一人で開発、製造する必要があるでしょう」
思わず独り言が零れてしまうほど、思考に没頭していたようだ。
それから試行錯誤をしばらく続け、ガイン自由都市軍に配備が始まったのは、それから一年ほどがたった頃だった。
完成した「えあがん」は、拳銃ほどには小型化できなかったが、少し重いアサルトライフルぐらいには収まった。
火薬を用いていないため、発砲時に炸裂音はせず、シュッという発射音がするだけになっている。
発射時の反動も思ったよりは少なくなっていて、かなり扱いやすい銃になっていた。
そして、魔道具形式であるため、引き金を引いている間はループ文で繰り返し発砲するフルオート機能にも対応している。
また、石弾の魔法で弾丸を形成しているため、前世の銃のように弾を補充する必要がなくなっており、魔石の魔力が続く限り連射が可能になっていた。
さらに、ご禁制の私の魔石を全てのえあがんに搭載することによって、かなり長い間、連射が可能にもなっていた。
ただ、石の弾丸であるため、鉛の弾丸ほどの貫通力はなくなっていた。そこは、長時間の連射が可能な特性を生かし、弾幕でカバーすればいいだろうと判断している。
「これは、また、ものすごい武器を作られましたな……」
カント将軍が、唸りながらこの新兵器の試射の様子を眺めていた。
そんな彼に対し、私は注意点を確認しておく。
「しかし、だからこそ、この武器が貴族たちの手に渡ってしまうとこちらの被害が甚大になってしまいます。打ち合わせ通り、えあがんの管理はくれぐれも厳重にお願いしますね」
そうやって、訓練の前と後でえあがんの個数を数えるなどの管理の徹底がなされた。
その理由を兵士一人一人にきちんと説明していたため、彼らも真面目に守ってくれているようだ。
(これで、時が来れば、いつでも貴族軍を蹴散らせますね)
私は、ガイン自由都市軍がさらに精強になったことを確信していた。
そして、来るべき日が少しでも早まるようにと、平民の学力レベルをさらに上げる方法を考えるようになっていった。