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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第141話 ダイガクの開校

 メイが旅立たびだってから、四年の月日が流れたころ

 エストはすでに七十歳になっていたが、私との約束やくそく健気けなげに守ってくれていて、健康けんこう管理かんりに気をくばり、まだまだ元気に頑張がんばってくれている。

 この国では、七十歳をむかえられる人の割合わりあいはそう多くないため、その誕生たんじょうを家族で盛大せいだいいわった。

 日々、努力どりょくかさねてくれるエストを見ていると、感謝かんしゃの気持ちから目頭めがしらが熱くなってくるが、エストがのぞんだのは笑顔えがおでの見送みおくりだ。

 そのため、私は、決してなみだは見せなかった。

 あの大切たいせつ約束やくそくまもるため、私は、エストが旅立たびだつ日のための心の準備じゅんびすすめている。

 そして、このころになると、ようやくダイガクの設立せつりつ準備じゅんびが全て終わり、開校かいこうぎつけることができた。

 今日はその開校式かいこうしきであり、私は学長として、これから演説えんぜつおこなうところだ。

「みなさん、ご入学おめでとうございます。私が学長のヒデオです」

 私はこの都市では有名人になっているためなのか、学生がくせい諸君しょくん熱心ねっしんに聞き耳を立ててくれている。

「みなさんは、このあらたにできたさい高学府こうがくふであるガイン公立ダイガクの学生になり、勉学べんがくはげむかと思います。そんなみなさんに、少しだけアドバイスするとすれば、以下のようになります。知識ちしきとは強力な武器ぶきであり、大切たいせつ財産ざいさんです」

 私はここで少し間を開け、感触かんしょくたしかめながら演説えんぜつを続ける。

「例えば、契約けいやくに関するこの都市の条例じょうれい知識ちしきがあれば、一方的に不利な条件で契約けいやくむすばされることがなくなるでしょう」

 私はここでざっと周囲しゅうい見渡みわたし、学生たちの様子ようす確認かくにんする。ここまでは、みんな真剣しんけんに聞き入ってくれているようだ。

「そして、知識ちしきは、なにものにもうばわれません。たとえ火事でけ出されたとしても、盗賊とうぞくに身ぐるみはがされたとしても、頭の中までは決してうばわれません」

 学生たちの中には、うなずいてくれている人もいるようだ。私はたしかな感触かんしょくながら、さらに続きをかたる。

「首から上さえ無事ぶじなら、扶持ぶちかせぐ方法はいくらでもあるのです。学校の先生や、このダイガクの研究者、あるいは、薬を処方しょほうする医者など、できることはいくらでもあるのです」

 そして、私は、ここで一番いちばんつたえたかった主張しゅちょうべる。

「これからは、みなさんで切磋琢磨せっさたくまして、この大切たいせつ財産ざいさんを、より大きく、より確固かっこなものへとそだてていってください。人は知恵ちえある生き物です。ですから、人は、一生いっしょう勉強べんきょうすべきなのです」

 私はここで一呼吸ひとこきゅうを入れて、あらたな人材をダイガクに確保かくほすべく、主張しゅちょうかさねる。

「みなさんの中には、将来しょうらいはキョウジュとなり、研究者の道に進む人もいるでしょう。ですが、私はあえてこの言葉ことばおくります。普通ふつう優秀ゆうしゅうな人には、研究者をすすめません。奇人きじん変人へんじんこそ、ガイン公立ダイガクでは、キョウジュとして募集ぼしゅうしています」

 私の言葉ことばの意味が分からなかったのだろう。場がざわつき始めた。

 私はそれがおさまるのを少し待ち、その真の意味をかたる。

「少しだけ考えてみてください。普通ふつうの考え方しかできない人は、普通ふつうの研究しかできません。しかし、他人とはことなる独特どくとくな考え方をする変人へんじんであれば、独創性どくそうせいあふれる研究ができるとは思いませんか?」

 私のこの言葉ことばに、うなずいている学生もあらわれ始めた。

「ですから、このダイガクには、自己じこ推薦すいせん入試にゅうし制度せいどもうけています。我こそは自他ともにみとめる変人へんじんであると考えている方は、ぜひとも、この制度せいどを利用してください。私とキョウジュで面接めんせつをして、独創的どくそうてきな研究者に適正てきせいがあると判断はんだんした人には、入学にゅうがく試験しけんめんじょしますので」

 このダイガクは最高さいこう学府がくふの名にじず、入試にゅうし競争率きょうそうりつ熾烈しれつきわめた。

 それが、変人へんじんであれば免除めんじょされると発表はっぴょうされたのである。

 そのざわめきは会場を通りして、外で待機たいきしながら聞いていた父兄ふけいたちにまで広まっていった。

 私はこうして演説えんぜつを終えたのだが、その最後の発表はっぴょうはとてもショッキングなものだったらしく、司会者しかいしゃが場のどよめきをおさえるのにとても苦労くろうしていた。

 このニュースはまたたく間にガイン自由都市をめぐり、この次の年には、個性こせいゆたかな人材が、多数たすう自己じこ推薦すいせん入試にゅうしを利用してくれるようになるのであった。