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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第143話 見送りは笑顔で

 それからさらに、三年の月日が流れったころ

 エストは、すでに七十三歳をむかえていた。

 この国の平均へいきん寿命じゅみょうから考えれば、かなりのご長寿ちょうじゅになるまで頑張がんばってくれていた。

 ただ、さすがに、最近では体も弱り、数年前からだんだんと寝込ねこむ日がえていた。

 それでもなお、散歩さんぽができないなら食事だけでもと、私のために、健康けんこうに気を使い続けてくれている。

 そのあまりにもな健気けなげさに、私への愛情あいじょう巨大きょだいさに、私の感謝かんしゃの気持はもはや天井てんじょうらずである。

 ここまで約束やくそくたし続け、頑張がんばり続けてくれているエストのためにも、なんとしてでもあの約束やくそくたさなければと、私は、日々、覚悟かくごかさねていた。

 そうやって、エストはゆっくりと年をかさねていたが、それでも時の流れは残酷ざんこくである。

 少しずつ体が弱って行き、近頃ちかごろでは、ほとんどたきりになっていた。

 そんなある日。

 主治医しゅじいの見立てでも私の見立てでも、今夜が旅立ちの日であろうと予測よそくされた夜、家族かぞく一同いちどうでエストの寝室しんしつあつまり、その時を待っていた。

 ゆっくりと寝息ねいきを立てるエストのとなりに私はすわり、微笑ほほえみをかべながら、その様子ようすをじっとながめていた。

 エストの愛情あいじょうこたえるのは、今夜だ。今夜しかない。

 そう覚悟かくごを決め、微笑ほほえみ続けて、その時をじっと待った。

 やがて、エストは目を開け、ゆっくりと私の方へき、とても気軽きがる様子ようすかたりかけた。

「ちょっと、メイやお父様たちに会いに行ってきますね……」

 まるで近所きんじょ挨拶あいさつにでも行くような様子ようすでそう言うと、しずかに息を引き取った。

 その最期さいご瞬間しゅんかんまで、少しでも私をかなしませまいとするその愛情あいじょうの深さに、私も持てる愛情あいじょう総動員そうどういんして、微笑ほほえみ続ける。

「いってらっしゃい、エスト。今まで、本当に……」

 そこまで口にした瞬間しゅんかんに、私の目に熱いものがまり始める。

 私はあわてて天井てんじょうを見つめ、それを無理やりひっこめる。

 エストがのぞんだわかれは、こうではない。だんじてない。

 私は再び笑顔えがおを作り、続きをかたる。

「今まで本当に長い間、おつかれさまでした。これからは、ゆっくりとやすんでください。あなたのこれからのたびが少しでも良きものになるように、ずっといのっていますね」

 ほほ一筋ひとすじだけつたい落ちた熱いものをそでぐち強引ごういんぬぐい去り、私は約束やくそくどおり、できる限りの笑顔えがお見送みおくった。