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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第145話 確率論の特別授業

 私はダイガクの学長として就任しゅうにんしたため、高等学校の時と同じように、授業の進捗しんちょく確認かくにんふくめて、時々、特別授業を行っていた。

 これは、そんな特別授業の一幕ひとまくになる。

「学長先生、今日の授業じゅぎょう内容ないようは何ですか?」

 最前列に陣取じんどっている勉強べんきょう熱心ねっしんそうな女子生徒の一人が、好奇心こうきしんたされた目で質問してきた。

 私は、それに微笑ほほえみを返しながら説明せつめいをする。

「今日は、確率の落とし穴についての授業になります」

 そう言って、少しあたりを見渡みわたしながら内容ないようかたる。

「確率というものは、数字から受ける印象いんしょう以上いじょうに、望まない結果がしょうじやすいというお話になります」

 私は、そのように前振まえふりをべてから、持論じろん展開てんかいしていく。

たとえば、95%の確率で勝てる勝負しょうぶがあったとします。この数字なら、まず間違まちがいなく勝てると思いませんか?」

 先ほどの質問をした女子生徒を始め、いたるところでうなずいている様子ようすがうかがえる。

「こういう数字は、実は、のぞまない結果けっかの数字を分析ぶんせきした方が、より正確な意味が分かります。この場合は5%ですね。これを分数になおすといくつでしょう?」

 私の質問に一番元気よく手をげた男子生徒を、私は指名しめいした。

「100分の5ですから、20分の1です」

「はい、正解せいかいです。みなさんは優秀ゆうしゅうですから、この程度ていど簡単かんたんですよね」

 返答した男子生徒は、少しむねを張って自慢じまんげにしている。私はそれに微笑ほほえみを返し、続きをかたる。

「つまり、20人に1人は負けてしまうという確率になります。この教室のみんなで勝負しょうぶした場合、2人ぐらい負ける人がでてしまうという意味になります。そう考えると、案外あんがいけることもありえる数字だと思えてきませんか? 自分がその2人になりうる数字だと思えませんか?」

 私がそうべると、うなずいている生徒が多数見える。

 先ほどの最前列の女子生徒は、とてもおどろいた顔をしながらうなずいてくれている。

「この傾向けいこうは、り返し確率で遊ぶギャンブルのようなゲームでは、特に顕著けんちょになってきます。例えば、99%の確率で勝てる勝負しょうぶがあったとします。これなら、100分の1しか負けませんから、ほぼ確実かくじつに勝てる勝負しょうぶでしょう」

 生徒たちは、みんな真剣しんけんに聞き入ってくれているようだ。私はそれに手ごたえを感じながら、さらに続きをかたる。

「この勝負しょうぶを20回行った場合、少なくとも1回は負ける確率は、どのような計算式でもとめられますか?」

 今度は、ひかえめに手をげている男子生徒を指名しめいした。

「1 – 0.99の20乗です」

正解せいかいです。やなり、みなさんは優秀ゆうしゅうですね」

 私は、微笑ほほえみをやさないように注意しながら、さらに持論じろん展開てんかいしていく。

「これを計算けいさんもとめるのは大変たいへんですから、デンタクの魔道具を使って計算しました。それによると、このあたいは約0.182となります。つまり、確実かくじつに勝てるはずの勝負しょうぶで、実に2割近くも負けてしまうという計算になってしまいます」

 おどろいている顔をしている生徒たちを、私はうなずきながら見渡みわたし、結論けつろんべる。

「このように、確率の数字は、自分にとって不利ふりな方を詳細しょうさい検討けんとうすると、より正確な意味が判明はんめいします。みなさんも、確率で物事ものごとを考えるさいは、その表面的ひょうめんてきな数字だけを見るのではなく、裏側うらがわの意味するところもきちんと判断はんだんするように心がけてくださいね」

 この日の特別授業は生徒たちの受けが良かったため、キョウジュたちにたのまれて、毎年の恒例こうれい行事ぎょうじとして組みまれることになったのであった。