先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第146話 六代目の子孫
それから、さらに三年の歳月が流れ去った頃。
二十三歳になっていたリズが、ようやく結婚していた。なかなか特定の恋人を作りたがらなかったため、周囲をやきもきさせていたのだが、これはという殿方を見つけてくれた。
リズは常々、以下の様に公言していた。
「どんな状況になっても私を守ってくださる、強い殿方が理想のタイプです」
(それはそのまま、カズシゲが理想のタイプってことですよね?)
そのように家族はみんな思っていたのだが、誰もツッコミは入れなかった。どうやら、カズシゲが可愛がりすぎたため、すっかりブラコンに成長してしまったようだ。
そのような状況だったのだが、やっと見つけてきてくれたお婿さんは、ダラスさんというガイン自由都市軍の幹部候補生だった。
彼は若手のホープとみなされるほど精強で、盾を使った盤石な守りからの堅実な攻めを得意としている、かつてのエルクを思い出させる男性である。
ちなみに、ガイン自由都市軍にはえあがんが配備されているのだが、それらは厳重に保管や管理をする必要があるため、魔物相手には従来の剣と盾を利用した戦い方もしていた。
ダラスさんは、そういう戦い方を得意としているようだ。
(メイといい、リズといい、私の家系はブラコンになりやすいのでしょうか?)
私は、そんな、益体もないことを考えていた。
無事にリズが結婚式を終えて、一週間ほどが経過した頃。ミリアさんが産気づいた。
何事もなく生まれてくれさえすれば、我が家はおめでた続きになるため、家族たちの期待を一身に背負いながら、ミリアさんは出産に臨んでいた。
(ミリアさんが、妙なプレッシャーを感じなければいいのですが……)
そのように私は密かに心配していたのだが、彼女は私が思っていた以上に強い女性だったようで、すんなりと男の子を出産した。
初代の私から数えて六代目となる、直系の子孫の誕生である。
生まれた男の子は、黒髪に茶色い瞳という、どこかエストの面影がある赤ちゃんだ。
そして、カズシゲは、かつてのシゲルと同じように、頑張った自分の妻をこれでもかと褒め称えていた。
やはり親子だなと私は思いながら、微笑みつつ眺めていた。
しばらくすると、カズシゲは我が子をそっと抱き上げ、私に丁寧に渡してくれる。生まれたばかりの赤子を抱きながら、私の頬も緩みっぱなしになった頃。
カズシゲは、かつてのエストとシゲルの取り決めをちゃんと知っていたようで、私に三度目となる恐怖のお願いを始めてしまう。
「では、大おじい様。この子に名前を与えてやってください。私やお父様のような、森の隠れ里の雰囲気のある素敵な名前を、ぜひともお願いしますね」
私は、やっぱりこうなるのかと頭を抱えたくなったのだが、ぐっとこらえて、赤子を抱き続けた。
それから数日の間、さんざん名前で悩みまくった私は、ある事実に思い至る。
(私の壊滅的なネーミングセンスで名付けようとするから、酷いことになるのです。ここは、歴史上の偉人たちから名前を拝借しましょう)
そのように思いついた私は、「リョウマ」と命名した。
「リョウマというのは、ここからは遠い国で、魔物の王とも土地神様とも言われているリュウを、馬として乗りこなすほどの立派な人物になりますように、という意味です」
私のもっともらしい解説にカズシゲはとても喜んでいたのだが、もちろん、名前の由来は坂本龍馬である。
私はその事実をそっと胸にしまい込み、墓まで持っていくことに決めた。
リョウマもいずれは私よりも先に年老いてしまい、私を置いて旅立つだろう。
しかし、だからといって、この子に愛情を注がずに育てるという選択肢は、私にはどうやっても取れない。
ならば、エストとの約束通り、せめて笑顔で見送る覚悟を最初からしておこうと、固く心に誓った日であった。
いつか、遠い未来、あの世で再会した時に笑顔で合ってくれるように、私は全力を尽くそう。
そう、誓った。