先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第151話 五代目領主カズシゲ
それから、しばらくの時が流れ去った頃。
クリスさんがいつまでもこの都市に滞在を続けると、島の生活に支障が出るであろうという判断の元、毎日楽しそうな彼女をなんとか説得して島まで送り届けることにした。
最初はかなりの難色を示していたクリスさんだったが、私が一緒に旅をして島の里まで送り届けることを条件に、どうにか了承してもらえた。
ちなみに、クリスさんの説明によると、今現在の島での儀式は先祖返りがいない時代の慣例に則り、最長老が代行しているらしい。
私はクリスさんにある程度まとまった金額の入った財布の革袋を渡していて、帰りの道中で実際に使ってもらい、お金の扱い方を学んでもらうことにした。
なんと、私の領地に来るまでの間は、野宿しながらだったそうだ。
クリスさんほどの美女が一人で野宿していて、よく盗賊などの不埒ものに襲われなかったものだと、私はひどく恐ろしくなってしまった。
そのため、乗合馬車の利用方法や、宿屋の宿泊方法なども合わせて説明を加え、私に会いたくなったら遠慮なくこのお金を使ってくるようにと、重ねてお願いしていた。
そのようにしながら旅は順調に進んでいき、やがて島の里に到着した。
私はすぐにでも引き返すつもりだったのだが、里のみんなに引き留められたため、数日だけ滞在することを決めた。
そして、帰還の日。
クリスさんはとても寂しそうな顔をしていたのだが、渡したお金を使っていつでも遊びに来てくださいと伝えると、とたんに笑顔になって送り出してくれた。
それからは、私が島の里を訪問するのではなく、ふらりとやって来たクリスさんを私が出迎え、しばらくしてから島の里へ送り届けるというパターンが定着していった。
今度は一人となってガイン自由都市までの旅を続け、領主館まで戻ってくると、シゲルとカズシゲの親子が待ち構えていた。
なんでも、領主の交代をするつもりであったのだが、初代である私の目の前で領主の引継ぎを行うのが、いつの間にか一族の慣例として定着していたのだそうだ。
その引継ぎの場で、かつてのエルクが伝えた懐かしい言葉を、シゲルが再び次代のカズシゲへと伝えていく。
「いいかい、カズシゲ。ふんぞり返っているだけの貴族たちの言葉には、耳を貸さなくても構わないけれども、税金を納めてくれる領民たちの声には、よく耳を傾けるようにしなさい」
その言葉に対し、カズシゲは大きく頷きを返し、了承する。
「はい、お父様」
「そして、何か困ったことがあれば、大おじい様に相談するようにしなさい」
「お父様、それも一族の家訓ですか?」
そんなカズシゲの質問に対し、シゲルは笑顔になって頷き、肯定する。
「もちろんだよ。これは、お前のひいおじい様が、おじい様に領主を引き継ぐ時からずっと語り継がれている内容だよ」
「そうなのですか? 大おじい様」
私は苦笑気味になりながら肯定する。
「そうですね……。二代目領主のエルクから、三代目領主のエストへと引き継ぐ時に、そう言われました」
そうすると、カズシゲは笑顔になって頷き、抱負を語る。
「では、私も一族の伝統に則り、大おじい様を頼りにしますね。そして、私の代でも、この平民の首都をさらに発展させていきたいと思います」
このようにして、引継ぎを終えたシゲルは隠居生活を始め、カズシゲが五代目の領主として就任した。